【AsianScientist】悪性リンパ腫、第3の治療オプション「CAR-T 細胞療法」の可能性

リンパ系に影響を与える複雑な血液がんと、利用可能な治療オプションの一部について取り上げる。(2023年5月23日公開)

悪性リンパ腫は、体液と免疫反応を調節する免疫系の重要な部分であるリンパ系で発生する血液がんの一種である。これは複雑な疾患であり、通常は、白血球の一種であるリンパ球に影響を与える。多数のサブタイプがあるが、大きくはリード・スタンバーグ細胞として知られる特定の細胞の存在に応じて、ホジキンリンパ腫または非ホジキンリンパ腫 (NHL) として分類される。

2つの種類のうち、リード・スタンバーグ細胞が存在しない非ホジキンリンパ腫のほうが多く見られ、2020年には 全世界で544,352人の新規症例(または全新規がん症例の3%)と 259,793人の死亡が報告された。アジア全体では、241,270人の新規症例と 133,407人の死亡があった。シンガポールでは、2020年にはNHLはがんの上位10位内に入っており、1,099の新たな症例が報告された。

NHLはさらにB細胞性リンパ腫またはT細胞性リンパ腫に分類され、変異細胞の拡散速度に基づいて低悪性度または高悪性度に分類されることが多い。たとえば、最も一般的に診断されるサブタイプであるびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫 (DLBCL) は、数週間でリンパ系全体にアグレッシブに広がる可能性があるため、高悪性度に分類される。

アメリカがん協会によると、NHLの原因は不明だが、いくつかの危険因子が観察されている。たとえば、NHLを発症する可能性は、60歳を超えた人に高く、また、女性よりも男性が高い。ただし、NHLのサブタイプにより変わってくる。一部の研究から、特定の化学物質や放射線への曝露がNHLの発症リスクを高めることもわかっている。

NHLの症状はサブタイプによって異なるが、リンパ節の腫れ、または皮膚の下の無痛のしこりが典型的である。その他の付随する症状として、体重減少、疲労、胸痛、あざができやすい、または免疫系の低下により感染症にかかりやすくなること、もしくは重度になりやすいことが挙げられる。

近年、世界中の血液がん治療は大きく進歩しており、治療の選択肢は限られていながらも患者の生存転帰と寛解率は改善している。第一選択療法の多くは、急速に分裂する細胞の作用を阻害する細胞毒性薬を使用する化学療法である。免疫療法薬も一般的であり、これは化学療法と組み合わせたり、単独で使用することができる。

全体的には患者の治療結果は改善されても再発の可能性があるため、悪性リンパ腫の恐怖は続いている。

シンガポールにあるパーウェイがんセンターの血液科シニアコンサルタントであるドーン・ミャ・ハエ・タ (Dawn Mya Hae Tha) 医師は「すべての悪性リンパ腫患者が治癒するわけではありません。たとえば、DLBCL患者の40% が第一選択療法の後に再発する可能性があり、代替薬によるサルベージ療法や地固め療法としての細胞療法が勧められます」と語る。

再発した患者、または最初の治療に反応しない患者には、幹細胞移植が考慮されることがある。幹細胞移植を受ける前に、患者は高容量の化学療法を受ける。場合によっては放射線療法を受けて、移植に備えて体を整える。その後、破壊された細胞や病気の細胞を置き換えるために幹細胞が患者の血流に注入され、新しい健康な血液細胞を形成するプロセスが始まる。幹細胞は、がん患者自身の血液(自家移植)または適切なドナー(同種移植)から得ることができる。

これも失敗した場合、第3の治療オプションであるキメラ抗原受容体 (CAR) -T細胞療法がある。この療法では、T細胞を分離する前に、まず患者の白血球を収集する。次に、分離された T細胞をCAR遺伝子で遺伝子操作して、特定のタンパク質 (CAR) を生成すると、T細胞(すでにCAR T細胞となっている)が、がん性リンパ腫細胞を認識して破壊できるようになる。操作されたT細胞は患者に注入して戻される。

実験室でCAR-T細胞を調製するバイオ医学者

しかし、CAR-T細胞療法は非常に複雑な専門治療であり、血液専門医、神経内科医、感染症専門医、細胞療法の研修を受けた看護師や医師など、専門家からなる学際チームを必要とする。

がん治療は明らかに進歩しているものの、早期発見が最善の方法であることに変わりはない。 NHLの症状が疑われる場合は、医師その他の資格のある医療従事者のアドバイスを求め、正確な診断とサポートを受けることが望ましい。

本記事内のテキスト、イラスト、画像、その他の資料などは情報提供のみを目的としている。本記事の内容は、専門的な医学的アドバイス、診断、または治療の代わりを意図するものではない。病状や治療に関して疑問がある場合、または新しい療法を開始する前に、必ずかかりつけ医師その他資格のある医療従事者のアドバイスを求めていただきたい。本記事を読んだことを理由として、医療専門家のアドバイスを無視したり、アドバイスを求めるのを躊躇しないでいただきたい。

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