【調査報告書】『シンガポールの科学技術人材育成・確保に関する調査』

2023年6月15日 JSTアジア・太平洋総合研究センター

科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『シンガポールの科学技術人材育成・確保に関する調査』を公開しました。
以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html#fy22_rr02

エグゼクティブ・サマリー

アジア・太平洋は世界でも経済成長が目覚ましい地域の1つである。特に過去10年では、多くの国・地域で科学技術力も目覚ましく成長している。シンガポールはアジア・太平洋地域の中でも、ESIトップ論文など科学技術イノベーションのアウトプットにおいて高い注目度を示してきた。

本調査は、成長の活発なこれら諸外国との科学技術協力を促し、日本の研究開発力を維持・向上するため、特にシンガポールの科学技術人材育成・確保に関する政策・戦略を主として公開情報に基づいて明らかにし、日本の将来にとって考慮すべき事項等を示した。

初めに、科学技術人材の育成・確保をめぐる基本政策について、政策文書および最新の政策声明からその主要な内容を述べ、必要に応じてその背景を紹介した。

次に、科学技術人材育成の主要施策は、(1)研究者の国内での育成、(2)研究者の海外での育成、(3)外国人研究者の招聘、(4)外国人留学生の支援、(5)労働市場政策・教育政策など他の関連施策、に分類して示した。また留学生は、研究開発に将来携わる予備軍と見なせるため、データ取得の確実性にも鑑み、外国人留学生の誘致施策に絞って調べた。

なお、研究者の育成・確保に隣接する動きとして、教育政策と労働市場政策についても補足的な調査を行なうこととした。前者については21世紀初頭の制度改革(特に科学教育に関連するもの)、後者については近年の産業構造の転換を反映したデジタル人材の雇用拡充戦略を調査し、結果を示した。

調査の結果、シンガポールの科学技術人材育成・確保の特色として、次の4点を挙げた。(1)外国人研究者の割合が多い。奨学金や研究助成金の受給に際して、内国人と外国人を区別しない傾向が強い。(2)女性研究者の割合が多い。任用や活躍推進に際して、性差を区別しない傾向が強い。(3)科学技術人材の流動性が高い。シンガポールはアメリカと中国の両国と人材の移動が多く、両国から受け入れた人材を自国の発展に活用している面がある。(4)国内トップ大学であるシンガポール国立大学は、産業界との連携を強く志向し、各種の世界大学ランキングで、2018年以降アジア・太平洋地域首位を維持している。

上記の特色や現状を踏まえ、日本が参照すべき事項として、次の4点を掲げた。(1)研究開発活動に対して、着実(持続的)に投資を拡充(国の研究開発費を拡充)する。(2)世界的な人材獲得競争の中で、外国人と内国人を制度的に区別する措置をとらない。(3)研究環境を国際的に開かれたものとするため、技術流失のリスクに対して、過度に防衛的な措置を講じない。(4)(3)と同様の目的から、潜在的な科学技術人材供給源を柔軟に開拓する。優秀な在外日本人の呼び戻しを積極的に行い、外国人や女性の登用を推進する。

シンガポールの成功の背景としては、しばしば科学技術研究庁(A*STAR)創設直後に設置されたバイオポリスが象徴的に紹介される。だが上述の提言等に示しているように、様々な人材育成施策が相乗効果を生んでいると推察できる。加えて、社会のニーズに応じた大胆な教育改革や、産業界の変化に応じた機動的な雇用転換施策によって、国籍・性差・年齢の多様性に富んだ科学技術人材を確保できていると考えられる。

日本はこうしたシンガポールの実践を踏まえ、研究開発に対する投資を着実に拡充し、内国人材の流失を抑え多様性ある研究環境づくりに努めることにより、科学技術人材の育成・確保を充実させ、更なる科学技術の発展に繋げることができると確信している。

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