【AsianScientist】シンガポールの若者のために緊急のメンタルヘルス対応が必要

新しい調査は、シンガポールの若者のうつ病と不安症の割合に注目している。(2023年8月1日公開)

世界で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが猛威を振るった。その間、社会的孤立、強制的な遠隔学習、ソーシャルメディアの利用が増加した。これらは若者に対し、前例のない大きな影響を与えた。親を対象とした最近の調査結果から、シンガポールの若者の間で、うつ病や不安症が驚くべき割合で発生し、それには過度の経済的負担を伴っていることが明らかになった。これらの調査結果は Child and Adolescent Psychiatry and Mental Health誌に掲載された。若者のメンタルヘルスケアを改善するために変革的対策が緊急に必要であることが示されている。

パンデミックの以前から、いくつかの国では過去10年間で若者のうつ病や不安症の割合が倍増していることが分かっていた。これらの症状は、学業、危険な行動をする傾向、薬物乱用に対する脆弱性などに影響することが多い。

デューク大学-シンガポール国立大学 (Duke-NUS) の 医療サービス・システム研究 (HSSR) プログラムの医療経済学者であり、論文の上級著者であるエリック・フィンケルスタイン (Eric Finkelstein) 教授は「若者のメンタルヘルスに対応しない場合、その実際の影響は成人期まで続きます。病気に由来する学業不振その他の問題を持ち、やりがいのある高収入の仕事に就く可能性は低くなります」と述べた。

治療予防策を優先する政策を推進する取り組みの一環として、Duke-NUS医学部のフィンケルスタイン教授と彼のチームはメンタルヘルス研究所 (IMH) と協力して、シンガポールの若者たちの間のうつ病および不安症の有病率および経済的影響について、現在の推定値を調べることから始めた。

2022年4月から6月にかけて、1,515 人の若者の代わりに991人の親にPHQ-4スクリーニングアンケートに回答するよう依頼し調査を行った。調査には既存のウェブパネルを使用した。これは予備的スクリーニング調査であり、うつ病や不安症と一致する症状を示した7歳から21歳までの子供を持つ親104人が特定された。その後、これらの親はより広範な調査に参加するよう求められた。この調査には学校の欠席、学校の成績、医療の利用に関する質問が含まれていた。

回答によると、若者の 11.7% がうつ病に、12.8% が不安症に該当する症状を示していた。 合計すると、若者の 16.2% がこれらの疾患の少なくともいずれかと思われる症状を示していた。親たちの報告によると、これらの若者はメンタルヘルスの状態を理由として平均190時間、つまり24日間学校を欠席しており、学校と日常生活の両方で成績や行動力が著しく低下していた。

このような数値にもかかわらず、これらの若者の84.8% はいずれの疾患についても正式な診断を受けておらず、つまり、その大多数が未治療のままである。このため、そのうちの64% が考えもしなかった救急外来での受診または入院が必要となった。 調査によると、親は平均10,250シンガポールドルを医療に費やしており、集団レベルで換算すると、これらの症状に関連する推定年間費用は12億シンガポールドルに達する。

Duke-NUSのHSSRプログラムのアイリーン・テオ (Irene Teo) 助教授と論文の共同著者たちは「私たちの研究結果から、シンガポールでメンタルヘルス治療を受けるにあたり子供も大人も多くの手段を利用できるようにするため、一層大規模な支援活動が必要であることが分かりました」と述べた。

著者らは、このようなメンタルヘルス症状を持ち、治療を受けていないシンガポールの若者の割合が、この研究では過小報告されている可能性があることに注目している。過少報告の原因は、主に親が子供の代わりに回答していることにあるかもしれない。親は子供の症状に気づいていない場合がある。また、メンタルヘルスに関する偏見のために症状を知らせたがらないこともある。 著者らはこの問題の大きさに懸念を表し、若者たちが改善されたメンタルヘルスの治療をタイミングよく受けられるよう、障壁を取り除き有意義な措置を講じるために、省庁同士が協力して取り組むことの重要性を強調した。

フィンケルスタイン教授は、「エビデンスに基づく治療へのアクセスを増やすとともに、メンタルヘルスの症状を早期に特定し、ピアサポートプログラムをより有効に活用し、メンタルヘルスに対する偏見を取り除く取り組みを強化するために、子供と大人の両方を対象としたスクリーニングプログラムを実施する必要があります」と付け加えた。「 子どもも大人も精神疾患の有病率が高く、治療にかかる費用も高いため、メンタルヘルス戦略を成功させるには、シンガポールの糖尿病との闘いと同じレベルの緊急性が必要です」

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