シンガポールの研究者らは細菌毒素や炎症促進性サイトカイン分子を捕捉し、敗血症治療に画期的な進歩をもたらす可能性のある合成ナノネットを開発した。(2023年8月18日公開)
シンガポールの研究チームは、敗血症の標的療法として多機能合成ペプチドナノネットを開発した。このナノネットは、菌体内毒素と炎症誘発性サイトカインの両方を捕捉し、細菌感染を原因とする炎症を軽減させることができる。この研究はAdvanced Healthcare Materials誌に発表された。
敗血症は生命を脅かす疾患であり、その特徴は感染に対する身体の極端な反応である。これは、既存の感染症が体全体に連鎖反応を引き起こす場合に起こり、肺、皮膚、胃腸管で見られることが最も多い。研究者たちは今まで敗血症に対する標的療法の開発を試みてきたが、ほとんど成功していない。
研究チームは敗血症の新しい治療法を考案するにあたり、マルチサイトカイン技術に注目した。 チームは以前、細菌を捕捉できるナノネットに自己集合する抗菌ペプチドを設計しようとしていた。この新しい研究で、チームは、ペプチドナノネットには細菌感染に反応して一般的に見られる炎症を軽減できるという機能が加わっていることを発見した。
このナノネットは、グラム陰性病原体から放出されたエンドトキシンや宿主マクロファージが産生する炎症メディエーターを結合・補足し、抗炎症効果を示した。炎症誘発性サイトカインと抗炎症性サイトカインの間の正味の電荷の違いにより、ナノネットは炎症誘発性サイトカインとの結合に優れた優先性を示す一方、抗炎症性サイトカインとの相互作用は最小限に抑えられた。
さらに、ナノネットは、グラム陰性菌感染症に対するコリスチン(抗生物質)の抗菌活性を復活させるのに顕著な効果を示し、最後の治療法としての使用に適している。この発見は、複数の段階で多機能ペプチドナノネットが敗血症合併症の軽減に広範な影響を及ぼし得ることを初めて示したものであり、意義深いものである。研究では肺を損傷させることを目的として、マウスの肺にエンドトキシンを投与したが、 ペプチドナノネットは炎症促進性サイトカインの濃度を下げることができた。さらに、ペプチドナノネットの効果は、炎症を軽減するために使用されるステロイド薬であるデキサメタゾンと同程度であった。
論文の責任著者で、シンガポール国立大学(NUS)薬学部のレイチェル・EE ( Rachel EE) 准教授は EurekAlert! に投稿した記事の中で,「敗血症の統合的治療のための多機能生体材料として、私たちのペプチドナノネットは、並外れた治療可能性を証明しました。私たちの長期的な目標は、臨床応用に向けてこれらのツールをさらに開発することです」と指摘した。
この革新的な研究により、医療の中で敗血症関連の問題に対処する新しい選択肢が生まれた。ペプチドナノネットでエンドトキシンと炎症誘発性サイトカインを選択的に捕捉できるのだ。これは大きな進歩である。このナノネットは、炎症反応に関連する主要な構成要素を同時に標的にすることができるので、敗血症合併症を管理するにあたり包括的の高い手法となる。ナノネットは多機能抗感染性生体材料として、グラム陰性病原体に対する抗菌効果を復活させる有望な選択肢となり得る。
この研究結果が敗血症の治療に与える影響は非常に大きい。研究チームは臨床応用に向けてペプチドナノネットの改良を続けている。多機能性を持つナノネットは、将来の生体材料および標的療法の研究開発に有望な道を開く。