がん細胞内のタンパク質を標的とする抗体薬である PRL3-zumab は、臨床試験で安全性と有効性を示した。(2023年9月13日公開)
PRL3-zumabとして知られる抗体薬は、シンガポールの科学者によって開発された。PRL3-zumabは末期がん患者を対象とした第 I 相試験で強力な安全性プロファイルを示し、国際共同第 II 相臨床試験で薬物有効性が証明された。
ファーストインヒューマン第 I 相試験 (ヒトに初めて投与する段階の試験) の結果が、最近、Targeted Oncology誌に発表された。 この臨床試験は、シンガポール科学技術研究庁 (A*STAR) からスピンオフしたバイオテクノロジー企業でありPRL3-zumabを開発したIntra-ImmunSG (IISG) と協力して、NCISのシニアコンサルタントであるチェー・チェン・エアン (Chee Cheng Ean) 氏の主導のもと、シンガポール国立大学がん研究所 (NCIS) で実施された。
PRL3- zumabは、ファーストインクラスのがん免疫療薬剤である。この薬剤は腫瘍細胞内にあるタンパク質でありがんを拡散させるPRL3 に結合する。従来、抗体は細胞に入るには大きすぎると考えられていたが、A*STAR 分子細胞生物学研究所 (IMCB) の研究ディレクターであるゼン・チー (Zeng Qi) 氏が主導した研究により、PRL3 は腫瘍微小環境からのストレスにより、がん細胞の表面に「裏返し」に付着する可能性があることが分かった。この現象は、PRL3-zumabがPRL3に結合し、宿主の免疫系を刺激して癌細胞を死滅させる機会を提供し、それにより、がんにとって好ましいPRL3の機能を不活性化し、腫瘍を縮小させることができる。
IISGの創設者でもあるゼン氏は「PRL3は、複数の種類のがん細胞でのみ特異的に発現するものの正常細胞では発現しないという非常にユニークな性質を持ちます。 したがって、PRL3-zumabは正常細胞を攻撃しないため、副作用が軽減されます」と述べた。
事実、第 I 相試験において、臨床医と研究者チームは、他に利用可能な治療法がない末期がん患者に対してPRL3-zumabは安全であることが分かった。この研究の用量漸増 (第Ia相) 試験コホートには11人の患者が参加した。これらの患者は、用量漸増を中止するほどに重篤な副作用の有無を判断するために、PRL3-zumabの用量増量治療を受けた。この試験ではそのような副作用は見つからず、用量拡大 (第 Ib 相) 試験に進んだ。この試験段階では、乳がん、結腸直腸がん、胃がん、肝臓がん、膵臓がん、急性骨髄性白血病 (AML) などさまざまな種類の腫瘍を持つ患者16人が参加したが、ここでも薬剤関連の重篤な副作用は見つからなかった。この試験では24人の患者の治療効果の評価も行い、PRL3-zumabが8分の1の患者のがんの進行を安定化させたことが分かった。
第 I 相試験の有望な結果を受けて、患者におけるPRL3-zumabの有効性をさらに評価するために、シンガポール、米国、中国、マレーシアで第 II 相臨床試験が行われている。興味深いことに、米国での第 II 相試験から、例外的な治療反応が得られた症例が明らかになった。PRL3-zumabは、ステージ4 の胃がん患者である71 歳の男性の予測余命を 3 倍延長した。
さらに、ゼン氏は進行中の第 II 相試験でさらに興味深いことを教えてくれた。「私たちの患者のほとんどは末期のがん患者であり、健康状態が急速に悪化しています。PRL3-zumabは治療の最終段階で投与されましたが、この薬剤はそれでもかなりの数の患者に対して優れた安全性と有効性を示しました」
臨床試験で得られたこのような好ましい結果があるため、PRL3-zumabは治療が困難ながん患者に対する潜在的な治療法として期待されている。
ゼン氏は「PRL3-zumabが進行中の臨床試験において、特に稀な悪性疾患に対する有効性を証明できたことをお伝えできるのは喜ばしいことです。稀な悪性疾患を持つ患者はあまり多くの治療を受けていないため、従来の治療が免疫系をひどく損傷させることはありませんでした。最初のステップとして、緊急のアンメットニーズを満たすために、早めのPRL3-zumabの承認を目指しています」と語った。