【AsianScientist】東南アジアのキャッサバ問題の根源に迫る«動画あり»

キャッサバモザイク病 (CMD)とキャッサバてんぐ巣病 (CWBD)による被害を受けて、東南アジアでは研究者たちが耐病性を持つ品種を開発し、健康なキャッサバの挿し木苗の生産を加速させている。(2023年10月27日公開)

2020年以来、新型コロナウイルス感染症パンデミックにより世界中で約700万人が亡くなり、他にも多くの人が長期にわたる心肺疾患を被った。しかし、急速に広がる病気に苦しんでいるのは人間だけではない。キャッサバのような植物も同様であり、人間が十分注意を払わなければならない。

キャッサバは食用作物としても工業用作物としても使用されており、東南アジアでの作付面積は 350 万ヘクタール以上と推定され、この地域の約 200 万世帯を支えている。この作物は世界の食糧システムで重要な役目を果たしている。キャッサバの丈夫な根はでんぷんやキャッサバ粉に加工され、今日の食卓に並ぶほぼすべてのものの原材料となり、麺類や乳製品からタピオカティーやグルテンフリーのビスケットまで様々なものが作られる。 キャッサバは医薬品、紙、繊維の製造にも使用され、乾燥キャッサバチップは動物飼料やエタノールの生産にも使用される。

丈夫な作物とされているキャッサバだが、現在、キャッサバ農園はキャッサバてんぐ巣病 (CWBD) と、最近になって現れたキャッサバモザイク病 (CMD) により、深刻なパンデミックに悩まされている。

伝染病のコスト

CMD は、カンボジア北東部に所在する1つのプランテーションを通じて東南アジアに入りこみ、そこから急速にベトナム全土、ベトナム南部の多くの部分とタイの約半分に広がった。これは、「生物多様性インターナショナル・国際熱帯農業センター同盟」(Alliance of Bioversity International and the International Center for Tropical Agriculture (CIAT))のキャッサバプログラムリーダー、ジョナサン・ニュービー (Jonathan Newby) 博士がAsian Scientist誌に語ったことである。

「これらすべてをまとめると、大陸にある東南アジアのキャッサバ農園の約30~40%が影響を受けることになります」とニュービー博士は語った。感染はコナジラミからの感染、またはすでに感染した茎を植えることによって起こるという。

キャッサバが感染すると、収量に大きな影響を与える。栽培の最初の 3 カ月以内に植物が感染すると、最悪の場合、収量は半分に減る可能性があるため、農業従事者にとってキャッサバの栽培は非常に不経済なものとなる。感染が栽培時期の後半に起こった場合、その年の収量は経済的には問題なくとも、翌年はきれいな植栽材料を得ることはできない。

静かな脅威の正体を暴く

キャッサバのサプライチェーンの中で生計を立てる人々を守るため、ニュービー博士と同盟のチーム、そしてラオス、カンボジア、ベトナムの各国パートナーは、短期的には農業従事者が短期間に植えられる健康なキャッサバの茎を迅速に増殖・普及させ、長期的には病気に強いキャッサバの品種を開発する方法を模索している。ニュービー博士は、東南アジア大陸部のパートナー間の連携を構築することが産業を守る鍵であると付け加えた。

特定の地域でCMDが蔓延していない場合、同盟のキャッサバチームは農業従事者に対し、既存の品種の健康なキャッサバの茎を植えることを推奨している。既に農園で感染がみられる場合、同盟は、農業従事者が耐病性を持つ健康な新種の種子を入手できるようにする。

しかし、現在の耐病性品種はデンプン収量が低いため、これは一時的な解決策でしかない。 ベトナムは、他のキャッサバ栽培地域から新たに数百の耐病性クローンを導入した。しかし、アジア内で新品種が開発される間の一時的対策として商業的に実現可能そうなのはわずか6つだけである。

「病気の影響が大きい地域で栽培した場合、得られるでんぷんは1ヘクタールあたりわずか2.4トンでしょう。けれど耐病性の品種を植えれば13.5トン収穫できます。しかし、病気があまり発生していない地域ならば、耐病性のない優良品種を植えたほうが収量は高くなります」とニュービー博士は説明した。

博士は、たとえコスト高であっても、清潔な植栽材料を維持し、病気の見分け方を学ぶことで、最終的には元が取れると付け加えた。チームは現在、農業従事者と協力して収穫パターンを調べ、農場への病気の影響を軽減する管理方法を開発し、新品種の評価プロセスでは、農業従事者に参加してもらっている。

農業の錬金術: 回復力の要素

長期的には、耐病性とデンプン高収量の両方を最適化し、高収量品種の開発が最終的な優先事項であることには変わりない。

しかし、キャッサバのような作物に耐病性を遺伝的に組み込むことは、一夜にしてできることではない。 実際、ニュービー博士は、品種開発プロセス全体は最大 8 年かかるだろうと述べた。このため、現在の一時的解決策が重要な時間稼ぎの要素となっている。

「これは、大陸間に発生する可能性のある他の感染症に備えるための先制行動でもあります」とニュービー博士は付け加えた。

教育と農業コミュニティとの関わりは、地域によってまったく異なる形で現れることがある。カンボジアでは、情報は大規模な SNSを通じて広がっているが、手っ取り早くカネを稼ぐためだけに自分たちの製品を耐性品種として偽って販売する業者がそれを崩壊させるかもしれない。

ニュービー博士とチームは、教育コンテンツを作成し、NGO と提携して、東南アジアのキャッサバ作物の回復力のある未来を確保するという長期目標の実現に取り組んでいる。

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