「The Impact of Technology on Learning」―科学と技術をつなぐウェビナー開催

2023年11月29日 JSTシンガポール事務所 馮 偉誠(Max Fong)

ウェビナーの講演者の写真

近年、生成AI(人工知能)などの新技術が生徒と教師の両方に新しい可能性を開き、学習方法を大きく変革させている。教育と学習で望ましい結果を得るためには、新しい技術を理解し、効果的に利用する必要がある。

科学技術振興機構(JST)シンガポール事務所とアジア太平洋支援ロボット協会(APARA)は、科学と社会をつなぐことを目的としたイベント「サイエンスアゴラ」において、「学習に対する技術の影響」をテーマとしたウェビナーを2023年10月26日に共催した。このウェビナーは一般の方も参加できる形で、専門家が最先端技術の現状を視聴者に共有するだけではなく、新しい技術がもたらす学習への様々な影響について話し合った。ウェビナーにはインドネシア、アイルランド、日本、マレーシア、シンガポール、タイなどから約100人が参加した。このウェビナーでは、以下の3つのトピックについてプレゼンテーションが行われた。

技術主導型学習モデルの調査

APARAの名誉評議会顧問であるオリバー・ティアン(Oliver Tian)氏はプレゼンテーションで、学習モデルを一人ひとりの生徒に合わせられるように、適応可能にする必要があると語った。最新のAIで進化した学習技術は、テキストだけでなく、音声、手書き、動画までリアルタイムで分析し、相応しい対応ができるようになった。これからそういった技術の機能などを使いこなすためのスキルはもっと求められるようになる。例えば、生成AIの場合は、利用者が出す指示文(プロンプト)で生成されるコンテンツが大きく変わるので、効果的なプロンプトを考え出す能力がとても重要とのこと。ティアン氏は他にもクリティカル・シンキングやコラボレーション能力、コミュニケーション能力などが学ぶべき将来性のあるスキルだと述べた。

テクノロジーを活用した学習の新たなモデル紹介

マレーシアの教育系スタートアップBeED Worldの会長であるマイケル・チアン(Michael Chian)氏によると、学習の技術は機能だけでなく、国の経済格差や障害を持つ生徒のことも考慮し、多くの学習者に広められるように開発すべきだと強調した。国によってどれほどインフラを備えているのかが違ってくるので、技術の開発では見た目より柔軟性や学習の効果を考えることが大切だ。現在、BeEDは2024年にリリースする予定の学習のテクノロジーを開発中で、これは顔認識AIで学習者のマイクロ表情を分析し、学習者にとって学習の内容のどの部分が難しいか、もしくは簡単すぎるかなどが判断できる。この情報を利用し、リアルタイムでそれぞれの生徒に適切に調整を行い、所定の学習成果へと導くというのがBeEDのテクノロジーの特徴である。

学習に対するテクノロジーの影響

アイルランドのトリニティ大学の付設機関Learnovateで学習の研究をしているイルゼ・ホワイト(Ilse White)氏によると、ここ30年で学習の研究の大きな進展があり、人間はどのように新しいことを学ぶかについての理解がかなり深くなった。ゆえに、技術はどのように学習のプロセスの役に立っているかをより正確に評価することができ、研究のデータに基づいて効果的な技術を開発することができるようになったのだ。したがって、ただ最新のテクノロジーのトレンドを追うのではなく、新しい技術を採用する時は必ず研究に基づいているかどうかを確認するべきである。それに、学習の環境に適するかを検討し、小規模から始めることがお勧めだそうだ。

技術が新しい機能をもたらすのはいいが、実際に技術が効果的に使われるようにするためには、生徒と教師の両方に適切なサポートを提供することや利用者のフィードバックで改善し続けることも大事だろう。

ウェビナーは終了したが、録画は以下のリンクからアクセスできる:
https://www.jst.go.jp/sis/scienceagora/2023/online/online/26a16.html

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