研究者たちは、脳の発達におけるミクログリアとニューロン(神経細胞)の相互作用を研究するために、ミクログリアを豊富に含有する脳オルガノイドを作成した。(2024年2月1日公開)
近年、実験室で脳オルガノイド(ミニ脳)の培養が行われていることから、人間の脳についての理解が深まってきている。科学者たちは脳オルガノイドを培養して脳の発達について研究し、薬剤スクリーニングを行い、高度なニューラルネットワークを作成する。 しかし、脳オルガノイドは通常、ニューロン以外の細胞種を持たないため限界がある。
ニューロン以外の細胞腫を持たない脳オルガノイドには、ニューロンと他の細胞との相互作用がない。たとえば、免疫細胞の一種であるミクログリアは、脳の成長の基礎を築き、生涯にわたる維持と修復を促進する。ミクログリアを研究するツールが不足しているため、ミクログリアが発達中の脳とどのように相互作用するかは依然として謎のままである。
シンガポール免疫学ネットワーク (SIgN) が主導する多施設共同研究において、研究者たちは脳オルガノイドにミクログリアを導入するプロトコルを考案した。Natureに掲載された研究では、脳オルガノイドの神経細胞はミクログリアにより潜在能力を最大限に発揮できることを示した。
SIgNの研究者で、この研究論文の責任著者であるフローレント・ジンホウクス (Florent Ginhoux) 氏は「私たちは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来のオルガノイドと原始型マクロファージを一緒に培養することで、ミクログリア含有神経細胞オルガノイドを作製しました」と述べた。
iPS細胞とは、胚細胞のようなものであり、成熟した皮膚細胞や血液細胞を天然状態にリプログラミングすることによって生成される。互いに並べて培養すると、マクロファージはオルガノイドに移動し、そこでミクログリアに分化した。 ミクログリアを豊富に含有するオルガノイドは、胎芽の脳で起こるプロセスを模倣した。
興味深いことに、ミクログリア含有オルガノイドは、そうでないオルガノイドよりもサイズが小さかった。 また、神経細胞とミクログリアの両方を生み出す幹細胞である神経前駆細胞も少なかった。 これは、ミクログリアがこれらの前駆細胞の増殖を減少させ、代わりに特殊な細胞への分化を促すことを意味する。
ミクログリア含有オルガノイドには神経細胞の生成に関与する遺伝子が多く発現し、神経系の概要を形作った。ミクログリアが豊富なオルガノイドはシナプスと軸索の成長を促進するため、成熟度は高かった。ニューロンは互いを接続させる長く伸びた繊維を持つ。これらの繊維は軸索およびシナプスと呼ばれ、どちらも信号が 一つのニューロンから次のニューロンに移動するのに使われる。ミクログリア含有オルガノイドのニューロンは、ミクログリア不含有オルガノイドよりも高い速度で発火した。
次に、チームはミクログリア含有オルガノイドのコレステロール値を調べた。脳はコレステロールを生成し、体内のすべての臓器の中でコレステロール値が最も高い。それによりニューロンが守られ、適切な機能が確保されることが知られている。チームは、ミクログリアがコレステロールの貯蔵と輸送を行う代謝経路を調節していることを発見した。ミクログリアの内部には脂質に似た液滴が存在する。これはコレステロールを運び、コレステロールは細胞型に取り込まれた。
このコレステロール交換は、オルガノイドの成熟にとって欠かせないものだった。 「このコレステロールを吸収する神経前駆細胞は、神経細胞に分化する際に代謝リプログラミングを行います」とジンホウクス氏は述べた。
この交換プロセスが遮断されると、ミクログリア含有オルガノイドはミクログリアを含まないオルガノイドのように大きくなった。これは、コレステロール交換が神経前駆細胞の成熟を促進することを証明している。さらに重要なのは、このことはアルツハイマー病やパーキンソン病などといった神経疾患に対処するメカニズムについてヒントを与えてくれる。
コレステロール値の変化は、神経疾患の発症に関与していると考えられている。 科学者たちは、高齢になって現れる多くの神経疾患は、胎芽の脳の発達に多少の原因があるのではないかと考えている。神経疾患、脳内のコレステロール値、およびミクログリアの代謝の関連性は、十分に解明されてはいない。
ミクログリアが豊富な脳オルガノイドは、このギャップを埋め、効果的な治療法を開発するための窓を作る。ジンホウクス氏は「これにより、疾患におけるミクログリアの役割を研究し、新しい治療法を開発する方法を提案できるようになります」と話した。