【AsianScientist】禁煙政策はいかに心臓発作を減らしたか シンガポール

シンガポールでは2013 年の禁煙拡大政策により心臓発作が減少した。これは、デューク大学-シンガポール国立大学医学部 (Duke-NUS Medical School)の研究者による分析により分かった。(2024年2月5日公開)

喫煙は心疾患などの血管関連疾患の主要なリスク要因である。受動喫煙であっても、これらの病気を発症するリスクは高まる。逆に、禁煙をし、または喫煙者に近づかないことで血管関連疾患のリスクは減少し、時間の経過とともに非喫煙者と同じレベルまでリスクが低下することもある。

このため、多くの国が禁煙法を制定するようになった。 心臓発作に対する喫煙の影響は、量に応じて高くなることが知られている。したがって、禁煙は喫煙者だけでなく、非喫煙者にとっても煙への曝露が減少するため有益である。

シンガポールの喫煙規則は最も厳しく、頻繁に更新されている。2013年、国は廊下や階段など住宅の公共スペースにも禁煙を拡大した。2016年には禁煙が公園や貯水池にも拡大された。2017年には、別の法律によりタクシー、民間バス、教育施設にも規制が拡大された。

これらはプラスの効果を意図した動きだったが、禁煙スペースを拡大することで公衆衛生上の利点が向上するかどうかは明らかではなかった。これを明らかにしようと、研究者たちはシンガポールの禁煙法がシンガポール人の心臓発作の発生率に及ぼす影響を調査した。

研究者たちは研究結果をBMJ Global Health誌に発表し、心臓発作の数が2010年から2019年の間に減少したことを明らかにした。デューク大学-シンガポール国立大学医学部の疫学者で、この研究の責任著者であるアイク (Aik) 氏は「禁煙法は65歳以上の人々、特に男性に利益をもたらしました」と語った。

研究チームがシンガポール心筋梗塞レジストリの心臓発作例の月次報告を分析したところ、2013 年の法律は保護効果があることが分かった。2013 年の法律が制定される前は、心臓発作の発生率は毎月100万人あたり0.9例ずつ増加していた。2013 年の法律の施行後、心臓発作の発生率は相変わらず増加を続けていたが、毎月の増加は 100 万人あたり 0.6 例であり、程度は低くなった。

チームは、2013年の法律がなかったら、さらに2万1,000例近くの心臓発作が発生し、そのうち93%が65歳以上だろうと試算した。対照的に、2016年の法律による禁煙拡大の後は、保護効果は得られなかった。

2017 の法律による禁煙拡大後のデータは保護効果を示したが、統計的に有意なものではなかった。しかし、その効果が年齢層や男女を問わず一貫していたという事実があることから禁止により何らかの利益が生まれた可能性が考えられる。

診断技術が向上してリスクを持つ人々を特定できるようになったというのが心臓発作の減少の理由の一つであろう。また、心臓発作は副流煙による死亡経路の1つにすぎない。さらに研究を進め、禁煙が呼吸器疾患や脳卒中などの他の心血管疾患の発症に影響を与えるかどうかを調査しなければならない。

禁煙の実施または拡大を検討している都市にとって、都市の中で最も喫煙者が集中する場所と時間を特定するための監視を実施することは重要である。アイク氏は、監視を行い、まず非喫煙者が受動喫煙にさらされる可能性が最も高い場所を集中的に禁煙エリアとすれば、リスクベースのアプローチが可能になると述べた。

禁煙や公衆衛生介入の実施には、多額の公的支出が伴う。政府は、それぞれの介入が国民の健康に利益になると思い込むべきではない。「楽観的になるのは良いことですが、意図した効果について政策を評価することが常に重要です」とアイク氏は話した。

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