2024年2月20日 斎藤 至(JSTアジア太平洋総合研究センター フェロー)
2023年に東南アジア諸国連合(ASEAN)は日本と友好協力50周年の節目を迎え、これを記念する会合が各所で開催され、今日の地政学的な重要性が改めて確認された。本稿ではアジア・太平洋域外の重要なパートナーであるアメリカとの協力に目を転じ、近年の様々な動向を俯瞰しつつ、そこからどのような示唆が得られるかを考察してみたい。
アメリカ合衆国(以下、アメリカ)はASEANの対話パートナー国として、その設立から10年後の1977年に外交的な関与をはじめ、科学技術協力としてはコンサルテーション(専門的助言)の形で協力を行ってきた。2010年代に入ると協力分野は拡大し、南シナ海問題を主とする政治安全保障にとどまらず、技術・教育・防災・食料安全保障を含む開発協力にも注力してきた1。2022年にカンボジア・プノンペンで催されたサミットで、両地域間の協力関係は包括的戦略パートナーシップへと格上げされた。
現場の研究者が交流を図る主なアリーナは科学技術イノベーション協力(STIC)年次会議である。2023年度の会議は9月にジャカルタ市内で開催され、持続可能なスマートシティ、循環経済、起業家教育を主題として議論が交わされた2。ASEANはアメリカ国務省東アジア・太平洋局および大学ランキングで起業家教育をはじめランキング最上位に位置するアリゾナ州立大学の支援を得て「STIC Portal」より情報を発信している。
経済的支援として顕著なものでは、2022年にアメリカ国務省東アジア・太平洋局の管轄で345万アメリカドル超のファンディングが公募された3。
2024年2月6日、ASEANはアメリカ国務省東アジア・太平洋局およびアリゾナ州立大学の支援を得て、「STIC Portal」内に人材流動性ポータルおよびオンライン教育プラットフォームを立ち上げた。「科学技術(S&T)」「起業・イノベーション(E&I)」「産業界専門職資格」の3つのトラックに分かれ、大規模オンライン教育(MOOC)大手のCourseraと協力し、アカデミアから産業界まで、科学技術人材にむけてリスキリング・スキルアップの機会を幅広く提供すると共に、6カ月のコースを修了して高度なスキルを身に付けた人材には、1件1.25万ドルのシード期(研究開発の最初期)グラントへ応募する権利が与えられる。
ポータルトップページ
https://stic.asuengineeringonline.com/
STIC PortalのホームページにはASEANおよび加盟諸国の科学技術パフォーマンス指標がダッシュボードに可視化されている。またSTIC事業で過去に実施したインキュベーター教育プログラムなどの成果報告書(アンケート集計結果)も公表されている。また対面に限らずfacebook やInstagram などのSNS(オンライン交流サービス)を通じた発信や交流の場も提供されている。
2023年までに、ASEANはEU(欧州連合)および日本と相次いで外交関係の節目を迎えたが、アメリカとも協力関係を深めていることが分かる。今後も先進諸国との外交において存在感を高めてゆくのか、動向を注視したい。