ASEANクリーンエネルギー開発の将来 加盟国の供給見通しと脱炭素化の推進

2024年3月29日 斎藤 至(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国では、続く経済成長と人口ボーナスにより、将来のエネルギー需要が高まると想定される。未電化地域をカバーしつつエネルギー源を確保して安定的な供給体制を構築し、かつ環境負荷を抑えた新たな発電技術を導入することが求められている。また環境負荷の低減に関しては、越境汚染の観点から国際機構であるASEANも広域的な協力を進めている。本稿では、現在の電力需給見通しを最新の報告書から俯瞰し、脱炭素化を更に推し進めるうえでどのような課題が存在するのかを概観したい。

ASEAN加盟国のエネルギー供給事情

初めに概況として国際エネルギー機関(IEA)の2022年見通しから、エネルギー供給の推移を見てみよう。ASEAN加盟国別に見ると、インドネシアが過去20年間にわたり最大のエネルギー供給国であるが、ベトナムとマレーシアのエネルギー供給量の伸びが顕著である。燃料別に見ると、再生可能エネルギーが2010年比の2倍に増加している。但し、石炭の供給も2005年の3倍、2010年と比べ2倍以上に増加している。加盟各国は社会経済情勢と技術水準に照らし、国連「持続可能な開発目標(SDGs)」の定める2030年までの温室効果ガス削減目標を設定している1

図 ASEAN加盟国のエネルギー供給の推移(燃料別・国別)
出典:Toru Muta, "Southeast Asia Energy Outlook, APERC Annual Conference 2023," p.5.

ASEANによる見通しと行動計画

ASEANは欧州諸国からの国際協力を受けてエネルギー政策を推進している。その協力枠組には、ノルウェー政府の資金提供による「気候変動とエネルギープロジェクト」(ACCEPT)をはじめ、ドイツの国際協力機構(GIZ)が関わる「ASEAN-ドイツエネルギー計画プログラム」(AGEP)、そして日本の経済産業省が関わるさまざまなプロジェクトが存在する。

ACCEPT、AGEPなどの協力を得て2年ぶりに策定された長期エネルギー見通し(2023年第7版、以下AEO7)では、四本のシナリオを検討し需給バランスを予測している。需要面では全ての部門で、電化推進の必要性が確認された一方、供給面では1次エネルギーの8割超を占める化石燃料が7割台へ低下し、再生可能エネルギーの比率も2割台に留まりこれを補うには至らないことが明らかにされている。

一般にエネルギー消費は地球の有限な資源を利用し、温室効果ガス排出、大気汚染などの環境負荷は越境性を伴う。そのため、ASEANでの広域的対応が不可欠となる。2015年9月には、ASEANエネルギー協力のための行動計画2016~2025(APAEC)が、第33回ASEANエネルギー閣僚会合で立ち上げられた2。以下7つのプログラムが展開し、現在2021~2025年の第2フェーズにある。

  1. ASEAN パワーグリッド (APG)
  2. ASEAN横断的ガスパイプライン (TAGP)
  3. 石炭技術およびクリーンコール技術 (CCT)
  4. エネルギー効率性と保全 (EE&C)
  5. 再生可能エネルギー (RE)
  6. 地域エネルギー政策・計画 (REPP)
  7. 民生用原子力 (CNE)

このうち、低環境負荷の燃料導入や環境改善技術(クリーンコール技術)3は3番目、熱効率などの向上技術は4番目、再生可能エネルギーは5番目に該当する。

冒頭に見たASEAN加盟国の供給事情からは、温室効果ガスの排出量を抑えつつ、域内の全体的なエネルギー需要増大に応えてゆく必要性が伺える。新たな発電技術に期待されるのは、脱化石燃料依存の供給体制と、二酸化炭素(CO2)を中心とした温室効果ガス排出を抑えるクリーンエネルギーの研究開発であろう。

脱炭素化のための国際協力枠組

ASEANによる環境協力は、汚染抑制と人権(環境権)保障の観点から社会文化次元で進められてきた。2009年に発表された社会文化共同体(ASCC)の青写真2015では、持続可能性(sustainability)のもと、11の優先課題が提示されてきた4。これを継承するASCC青写真2025では、再生可能エネルギーやグリーン技術の導入が謳われている。また、脱炭素化の推進に際しては、研究開発から技術経営、商業化までを一体的に調和させる必要が再認識された。これに則り、各国の科学技術系省庁が連携してBCGネットワークを形成している5

日本との二国間協力では2021年6月、経済産業省と東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)によりアジアCCUSネットワークが設立された。CO2の回収・利活用・貯蔵(CCUS)に関する知見の共有、工学的・法的・経済的な調査研究、能力構築のための支援を進めている。同年11月には、日-ASEAN気候変動アクションアジェンダ2.0が公表された。今後は、二国間クレジット制度(JCM)6の活用により、CO2を削減しやすいASEAN諸国で関連事業への投資が増えることが一部で期待されている7

ごく近年では、東南アジア域外を含むより広域的な協力枠組として、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)が発足した。2023年12月の日ASEAN特別首脳会議に併せて初の首脳会合が開催され、アジア・太平洋全体で温室効果ガス排出ゼロを目指した取組が日本主導で本格化する見通しだ8

将来のクリーンエネルギー研究開発へ向けて

ASEANの温室効果ガス排出量は欧州連合(EU)並み9の 35億CO2トン(2018年)で、その後も増加を続けている。冒頭に見たAEO7の需給見通しによれば、化石燃料の供給が低下する一方で、再生可能エネルギーの伸び率は低水準に留まると予測されている。温室効果ガス排出を抑制しつつ、豊富な天然資源を活かした新エネルギーの研究開発を進めることが急務である。

世界の成長センターとも称されてきたASEAN加盟国は、環境調和的な発電技術の将来を牽引できるのか。今後も動向を注視したい。

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