2024年4月8日 JSTシンガポール事務所 馮偉誠(Max Fong)
シンガポールでは2025年4月から、「Beverage Container Return Scheme」という飲料容器の返却を推進する制度が始まる。国家環境庁(NEA)の発表によると、新しいスキームでは、プラスチックボトルや缶の容器を使った飲料は販売時にSGD0.10(約11円)のデポジットが価格に加算され、空の容器を返却した際にデポジットが返却される。このようなスキームは既にデポジット返却制度を実施しているドイツやルーマニアなどヨーロッパの国で飲料容器の返却率が90%以上に達していることで、とても効果的と言われている。一方で、アジアではデポジット返却制度を実施している国がなく、シンガポールが初めてこのような制度を実施する国になる。シンガポールでは唯一のゴミ最終処分島が2035年に満杯になると予測され大きな課題となっていることもあり、新制度で飲料容器の返却率を上げることで少しでもゴミ問題の解決につながるよう期待されている。
スウェーデン、オーストラリアなど様々な国で実施されている似たような制度をサポートしたTOMRA社は、シンガポールの「Beverage Container Return Scheme」でも重要なパートナーになる予定だ。ノルウェーで設立されたTOMRA社は1972年から飲料容器の自動的な回収機を製造しているリーディングカンパニーであり、その回収機が現在100か国以上で使われている。
TOMRA社が開発した様々な自動回収機
先進のリサイクル技術や豊富な経験を有するTOMRA社は2022年にシンガポールにTOMRA資源活用革命センター(Resource Transformation Centre)を開設した。ここではTOMRA社の最先端技術とイノベーションの紹介や、シンガポールのリサイクル文化や自動的な回収機への住民の反応の調査が行われている。現在、TOMRA社は調査や認知度向上のために回収機をチャンギ空港第3ターミナルに1台、Punggol Shore住宅街に2台設置している。
自動回収機のデモンストレーション
(撮影:いずれも馮偉誠)
TOMRA社はスーパーやコンビニなど、どこでも適した回収機を設置できるように、様々な回収機を開発している。プラスチックボトルを1本ずつ返却する小さい機械もあれば、一度に100本以上投入できる大きい機械もある。シンガポールに設置されている3台の回収機は小さい方だが、とても効率的である。TOMRA社の認識技術で入れた物の形状、重量、バーコード、容器の種類及び容器が空かどうかを瞬間的に判断することができ、プラスチックボトルと缶以外の物や空でない物を入れても回収されない。また、回収機には不正行為を検出する機能も導入されている。プラスチックボトルにひもを結んで何回もデポジットの返金をもらおうとした場合、回収機はすぐに不正行為を検出し、デポジットを返金しないで管理人に通知する。
シンガポールはよく綺麗な国だと言われているが、日本と違ってゴミを分別する習慣があまりなく、住民のリサイクル率は残念ながら12%でとても低い。これから導入される飲料容器のデポジット返却制度で、TOMRA社の技術を通してシンガポールのリサイクル状況が改善することが期待できるだろう。
シンガポール政府は2019年に「Zero Waste Masterplan」という計画を策定した。これは2030年までにゴミ最終処分島に送る廃棄物を30%減少し、住民のリサイクル率を30%まで増加しようという計画である。飲料容器のデポジット返却制度の他、シンガポール政府は2020年と2022年のオープンイノベーションチャレンジで食品廃棄物を削減するソリューションの募集や、企業や団体でのゴミ減少やリサイクルの取り組みを助成する「3R Fund」など、様々な方面でゴミ問題を解決しようとしている。