「米国よりも中国を選択」国際関係の変動を反映、東南アジア意識調査

2024年4月19日 斎藤 至(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

シンガポールの政府系シンクタンクによる意識調査で、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国が米中選択を迫られた場合、「中国を選ぶ」とする回答が50.5%となり、初めて米国(49.5%)を上回ったとの結果が公表された。本稿では過去の調査結果とも比べつつその詳細を検討し、背景となる国際関係の変動を考えてみたい。

ASEAN10か国のうち5か国はアメリカより中国を信頼

『The State of Southeast Asia』(以下「東南アジア意識調査」)はシンガポールの政府系シンクタンク、ISEASユソフ・イシャク研究所が、東南アジアの民間企業や政府、研究機関などに所属する識者を対象とし、2019年から毎年行っているアンケート調査である。2024年は1月3日〜2月23日に東南アジア10カ国の1,994人が回答した。回答者の国籍は少なくともASEAN6カ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)からほぼ均等に選ばれるよう選定されている。

最新版である2024年版の要点は以下の4点にまとめられる。

  1. 東南アジアが米中選択を迫られた場合、「中国を選ぶ」50.5%、「米国を選ぶ」49.5%。
  2. 初めて米中逆転:昨年は「中国」38.9%、「米国」61.1%
  3. 最も経済的影響力のある国は、「中国」59.9%、「米国」14.3%
  4. 最も政治・戦略的影響力のある国は、「中国」43.9%、「米国」25.8%

但し両国の順位が逆転したという点は、あくまでASEAN平均であり、国ごとに見た場合は回答に隔たりがある。「中国を選択」と回答したのは、マレーシア(75.1%)やインドネシア(73.2%)、ラオス(70.6%)、ブルネイ(70.1%)などで割合が高い一方で、シンガポール(38.5%)やベトナム(21.0%)、フィリピン(16.7%)は低い。

過去の調査と比べると、2021年の東南アジア意識調査では「米中対立」がCOVID-19に次ぐ第二の懸念に挙げられていた(問5)。2024年は、ASEAN平均で見ると47%が「大国の経済摩擦の激化」を懸念、2023年の「米中デカップリング」(36.2%)よりも大幅に上昇していた。両国をはじめとする諸大国の地域協力は経済発展の原動力でもあり、いかに摩擦を緩和するかが一層の懸案となっていることが伺える。

更に精査すると、設問の幾つかには解釈の幅を思わせる点もある。例えば問34では「今後3年で対中関係はどう進展すると考えるか」を5段階で問うている。「改善する」または「大きく改善する」との回答が51.4%と、2023年(38.7%)よりも増加した。現在の経済的影響力が大きいことを考えれば (1)「中国の支配力が依然強すぎるので、関係が改善してほしい」との希望的観測とも取れるが、(2)「中国の経済成長に鈍化が見えるので支配力が弱まり関係が改善する」との予想とも考えられる。また問38では「中国が世界の平和、安全、繁栄、ガバナンスに貢献するために『正しい行動を取る』とどの程度確信しているか」を5段階で問うている。回答のうち「確信がない」が49.8%に上ったのに対し、「確信がある」は29.5%にとどまり1、「中国を選択」という意向が、中国への高い信頼へつながるとは必ずしも解釈できない状況も伺える。

日本は最も「信頼できる国」、その支持を得続けるために

東南アジア意識調査2024年版では、日本が最も「信頼できる国」(58.9%、前年調査に比べ4.4ポイント上昇)となった。更に日本は、ASEAN域外国で最も「働きたい国」(17.1%)、「訪れたい国」ではトップ(30.4%)になった。信頼度の高さに関しては、日本の『令和5年度ASEANにおける対日世論調査』でも「とても信頼できる」(52%)、「どちらかというと信頼できる」(39%)として現れている2

他方、先述の第4点に関連して、東南アジア諸国は安全保障面でも米中両大国の影響下にある。インド太平洋における中国の影響力向上に対し、米国を中心とする同志諸国の間には、同地域の多国間協力枠組に日本を引き込むことを通じて向き合おうとする動きがある3。この動きに対し、ASEANを含む近隣諸国が掲げる懸念は、日本への意識にも少なからず影響を及ぼすと考えられる。

こうした情勢下、日本はどのように相手国の人々から信頼と支持を得続けていくか。令和5年度の文部科学省補正予算では、ASEANとの相互信頼関係をさらに強化するため、日ASEAN科学技術・イノベーション連携協働事業として146億円が計上された4。今後5年程度を目途に、両地域に共通する重点課題や社会課題についての国際共同研究や、高校生から大学院生までを含む若手人材の交流・育成、研究協力拠点の形成などが想定されている。「訪れたい国」の声に応える意味では、人の誘致や観光に結びつく対外イメージの向上戦略とあわせて、国際交流を通じた有為な人材の育成を支える取組も、有効となるだろう5

上へ戻る