バイリンガリズムは、社会的手がかりの解釈力を高め、それにより認知予備能を高める。この利点は、老後でも継続する。(2024年5月15日公開)
子どもと若者を対象とした過去の研究では、バイリンガルであることが認知予備能を高め、他人の行動を理解するために不可欠な精神的柔軟性、注意制御、作業記憶(心の理論とも呼ばれる)を強化できることが証明されている。シンガポール工科デザイン大学 (SUTD) の研究チームとその協力者であるシンガポール国立大学 (NUS) の研究チームは、高められた社会的認知力が老後になっても持続するのか興味を持った
この疑問を解明しようと、チームは96人の若者と高齢者を対象とした研究を実施し、早期のバイリンガリズムにより、加齢により低下すると考えられている心の理論の能力を守ることができることを発見した。この研究はScientific Reports誌に発表された。
人は年齢を重ねるにつれて身体と脳の両方に変化が生じる。脳の特定の領域が縮小し、ニューロン間の伝達がうまくいかなくなる。シンガポール工科デザイン大学 (SUTD) のヨウ・ウェイ・クイン (Yow Wei Quin) 教授は「このような構造的・機能的変化は、加齢に伴う認知機能の低下をもたらし、言語、処理速度、記憶力、計画能力に影響を及ぼします」と述べた。
認知予備能は、脳が直面する能力低下や損傷を調整し、代償するための脳の手段である。これにより、人はタスクを達成するために別の方法や脳の領域を見つけることができる。
認知予備能は、その神経基盤である脳予備能と結びついている。脳予備能は、脳が大きく、ニューロン間の結合が多いなど、脳の特徴が優れていることを意味する。ヨウ教授はさらに、「予備能は、脳の柔軟性と回復力の特徴です。予備能が高い人は高齢になっても良好な認知機能を保つことができます」とつけ加えた。
チームはこの研究のために、シンガポール在住の若者46名と高齢者50名を集めた。若者は主に大学生であったが、高齢者は地域住民であり、ポスター、ソーシャルメディア、または口コミを通じて募集された。
参加者は右利きで、正常視力または矯正視力を持ち、色覚は正常、神経疾患または精神疾患の病歴はなく、3年以上の教育を受けていた。高齢参加者は認知機能の低下についての検査も受けた。ほとんどの若者は大学就学前教育を修了していたが、高齢者の学歴は様々であった。
参加者は全員英語と中国語を話すバイリンガルで、他の言語を知るマルチリンガルもいた。研究に参加した若者の多くは高齢者よりも早く第二言語を習得した。
研究の実施にあたり、各参加者は2つのセッションに参加した。1つはテスト、もう1つはMRIスキャンである。高齢者が受けたテストは記憶力テストおよび思考と言語に関する他の4つのテストである。その後、若者と高齢者を含むすべての参加者が、人々の考えを理解するためのタスクと言語アンケートに記入した。
MRIセッションでは、参加者はスキャンを受けながらタスクの記入を行った。いくつかのタスクでは、参加者に物を見せて、感情的な反応を観察した。通常、脳の予備能は幼少期の経験の影響を受けるため、この研究では脳の構造のみを調査した。他人の考えをどの程度理解しているかを確認するために、参加者は心の理論タスクと呼ばれる9つのタスクで15の質問に記入した。さらに、言語背景フォームや思考力を評価するためにその他のテストにも記入した。
特別なスキャナーを使用して脳画像 (MRI) の撮影を行い、FreeSurfer 6.0 と呼ばれるプログラムを使って分析を行った。このプログラムで脳のさまざまな部分をサイズと形状に基づいて調べ、健康状態を判断した。年齢にかかわらず、第二言語を早期に習得し、優れた社会的認知スキルを身につけることが、脳構造の変化(灰白質の体積や皮質の厚さの増加など)と関連していることが分かった。第二言語を早期に学習したことがこうした脳の変化につながったようであり、これが加齢に伴う社会的能力や認知能力の保護に役立つ可能性がある。
これらの社会的認知スキルは、特に他人の考えや感情を理解する上で不可欠である。この研究は、バイリンガリズムは単なる言語スキル以上のものであり、人々が年齢を重ねても社会的認知を維持し、健康的に老いていくのに役立つことを示唆している。
SUTDの論文の共同筆頭著者であるリ・シャオキン (Li Xiaoqian) 博士は、「私たちの調査結果は、人生の早い段階で第二言語を習得すれば、社会的認知という利益が得られる可能性を浮き彫りにしています」と述べた。
この研究結果は、親や教育者に対し、早期のバイリンガル教育と生涯にわたるバイリンガリズムを奨励させる動機にもなる。バイリンガリズムにより社会的認知機能を高めて維持することが可能になり、人々が楽しめる活動に参加したり、人間関係を維持したり、老後の介護の必要性を軽減させたりすることができる。
老化に伴う神経認知機能の低下は自然な現象であり、管理可能なことも多いが、そのプロセスを遅らせることは、人々が自立した生活を続けるためには重要である。この研究は、社会的認知の中で年齢に関連した心理的・神経学的変化を調査する大規模なプロジェクトの一部である。
チームはまた、参加者が社会的認知タスクを実行する際の磁気共鳴機能画像法 (fMRI) データも収集した。fMRIは、脳活動中の血流のわずかな変化を検出する技術であり、重要な機能に関与する脳領域を分析し、脳卒中その他の病気の影響を評価し、脳治療の方向性を定めるのに役立つ。チームは将来、行動データと神経画像データを分析して、バイリンガリズムが社会的認知に与える影響を解明する予定である。