女性科学者のジェンダーギャップを埋めようとする継続的な取り組みの一環として、ロレアルシンガポールはロレアル-ユネスコ女性科学賞2023に3人の優れた女性研究者を表彰した。レオ・ワン・ル (Leow Wan Ru) 博士、ヤン・レ (Yang Le) 博士、シュエ・シフェン (Xue Shifeng) 博士は研究費用としてそれぞれ1万シンガポールドルを授与された。(2024年6月7日公開)
2023年、カタリン・カリコ (Katalin Karikó) 教授はノーベル生理学・医学賞を、アンヌ・ルイリエ (Anne L'Huillie) 教授はノーベル物理学賞を受賞した。両教授は職に就いた1980年代当時は大きな障害に直面し、数えきれないほどの否定的な意見を聞かされた。困難にもかかわらず、両教授はそれぞれ輝かしいキャリアを築き、それぞれの分野に多大な貢献をした。カリコ教授はパートナーと共にmRNAワクチン開発に重要なRNA修飾を発見し、ルイリエ教授とそのチームは電子力学の実験方法で画期的な進歩を成し遂げた。
STEM分野における女性の取り組みは長年の間に評価されつつあるが、カリコ教授とルイリエ教授は、最近の2例に過ぎない。世界の研究者の中で女性の割合は依然として30パーセント未満であるが、少女や女性に対し科学への情熱を追及させようというプログラムは増えている。また、大学でSTEMを学ぶ女性の数やこの分野で働く女性の数は増加を続けている。
過去 25 年間にわたり、ロレアル-ユネスコ女性科学フェローシップは、世界中の女性科学者の研究の発展を支援するという大義をもって、誉れある助成金を提供してきた。シンガポールのフェローシップは 2009 年に開始され、これまでに 27 人の女性科学者を支援し、27 万シンガポールドル相当以上の研究助成金を給付してきた。
今年、ロレアル・シンガポールは 3 人の優れた女性科学者に賞を付与した。クアラルンプールで行われた授賞式では、レオ・ワン・ル (Leow Wan Ru) 博士、ヤン・レ (Yang Le) 博士、シュエ・シフェン (Xue Shifeng) 博士が受賞者として登場し、それぞれの研究である持続可能な化学、材料工学、バイオテクノロジーについて1万シンガポールドルずつ与えられた。 AsianScientist誌は、3 人の栄誉ある受賞者に話を聞き、彼女たちの仕事、動機、経験について詳しい話を聞いた。
シンガポールでは、人々が着用し、食し、使用し、所有するものの原料となる化学物質を製造するために、毎日150万バレルの石油が精製されている。放出される二酸化炭素はシンガポールの排出量の約半分を占めており、持続可能な代替手段の模索が急務となっている。
レオ・ワン・ル博士は化学・エネルギー・環境持続可能性研究所の科学者である。彼女はチームと共に、世界で14番目に多く生産されている化学物質であるエチレンオキシドを製造する画期的な方法を開発した。彼女のイノベーションは再生可能電力を活用し、二酸化炭素を排出しないため、従来の方法につきものだった環境負担の多くを取り去ることができる。
「私たちの研究はシンガポール経済と脱炭素化の目標に大きな影響を与えることができると確信しています。その結果は我が国だけでなく、アジア全体にも利益をもたらすことができます」とレオ博士は語った。
さらに、レオ博士は、彼女のチームはエチレンオキシドの生成速度を以前の報告の10倍以上に速めることができる新しいタイプの通電システムを初めて開発したことを教えてくれた。レオ博士とそのチームは、テレフタル酸など二酸化炭素排出量の多い物質について、再生可能な他の化成処理方法の研究を続けている。
材料研究工学研究所のグループリーダーであるヤン・レ博士は「科学者となって間もない頃、特にオプトエレクトロニクスとフレキシブルエレクトロニクスの分野で、有機材料とポリマー材料には変革の可能性があることに気づきました」と語った。「私は研究を通じて世界の幸福を推進したいと考えています。そして、エネルギーと医療という2つのことについて常に最優先で考えています」
ヤン博士の研究である健康のためのウェアラブルin-situセンサー (WISH) テクノロジーは、皮膚に関する先駆的な取り組みであり、非侵襲的、リアルタイム、ワイヤレス、かつ継続的な化学センシングを提供しようとしている。 このテクノロジーは、患者に自分の健康状態を効果的にモニタリングする機会を与え、患者は自分の健康を積極的にコントロールできるようになる。
ヤン博士は医療に大きな革命をもたらすかもしれない素材を探し求めている。ヤン博士は、さらにイノベーションが進み、そのようなテクノロジーが日常生活で当然のものとなり、医療、エネルギー、通信、さらには人間とコンピューターの相互作用などさまざまな分野が進歩した未来を思い描く。
研究分野のリーダーとして、ヤン博士はSTEM分野における多様性の促進に積極的に貢献している。 彼女は、性別に関係なく、次世代の科学者にやる気を起こさせたいと望み、ロレアル-ユネスコ女性科学賞プログラムのような取り組みは包括性を促進する上で重要な役割を果たすと確信している。
現在シンガポール国立大学の助教授であるシュエ・シフェン博士は、大学生の頃、魚やカエルの胚が卵から成長する様子を見てひらめくことがあった。この経験により、彼女は遺伝子が胚の発達と病気に対してどのような制御を行うのか学ぶ道を選んだ。
現在、彼女は主に、発達と疾患、特にヒトの先天性疾患における後生的な制御の研究をしている。シュエ博士とそのチームは、研究の中で、鼻のない人が生まれる原因となる遺伝子変異を特定した。 この発見は、初期の胚の発達における遺伝子の役割を解明する重要な一歩となった。
シュエ博士は「私たちは多くの臨床医や患者の協力を得て希少遺伝性疾患の研究を続けていきたいと考えています。 遺伝子の突然変異だけでなく、遺伝子が活動したりしなかったりするのはなぜか理解するために、遺伝子制御も研究しています」と語った。 「一般的な疾患の多くは、遺伝子の突然変異によって引き起こされるのではなく、遺伝子産物の生成量の変化によって引き起こされます。 私たちは、遺伝子を自在に活動させる、あるいは活動を抑制させるツールを開発して、研究や将来の治療に役立てたいと思います」
シュエ博士はそのキャリアの中で、個人として大きな成長を遂げてきた。彼女が乗り越え続けているハードルの 1 つは、大規模な会議で堂々と発言する自信を見つけることである。シュエ博士にとって、ロレアル-ユネスコ女性科学賞への応募は、目標達成に向けた大きな一歩であった。
「私の研究分野の次世代の女性たちにやる気を起こさせるには、自分のストーリーを伝える必要があることに気づきました。これにより、私の意見を伝えることのできる素晴らしい場を見つけることができたのです。私は、科学にはもっと若くて熱心な女性が必要だと信じています。科学は少数のエリートだけのものではありません。私は、このような女性たちが自分自身を信じ、大きな目標を持てるよう、自分の役割を果たそうと努力しています」と彼女は語った。