研究者たちは、スマトラオランウータンが鎮痛作用のある植物の樹液を開いた傷口に塗っている様子を記録し、人間が傷口を治療する習慣は共通の祖先から受け継がれていると語った。(2024年7月17日)
2022年6月、インドネシアの保護林であるスマトラ島熱帯雨林で活動していた研究者たちは、2頭のオランウータンが喧嘩している声を耳にした。翌日、彼らはラクスという30代の雄のオランウータンを発見した。ラクスのまぶたのすぐ下には開いた傷口があった。マックス・プランク研究所とジャカルタ国立大学の研究者たちはその後数日間ラクスを観察し、これまでに見たことのない行動を記録し、最近になってScientific Reports誌にこの行動を発表した。
ラクスは、フィブラウレア・ティンクトリアの葉を食べているところを目撃された。フィブラウレア・ティンクトリアは東南アジアの森林で多く見られるつる植物であるが、スアック・バリンビン調査地域のオランウータンはめったに食べることはない。研究者たちはすぐに、負傷からわずか3日後のラクスにとって、それは単なる奇妙な渇望ではないことに気づいた。
研究者たちは「ラクスがこのツル植物を食べ始めてから13分後、葉を飲み込まずに噛み始め、指を使って口から出た植物の汁を顔の傷に直接塗り始めました」と書いている。
ラクスは7分間かけてこの汁を傷に塗り、ハエが現れ始めたときには果肉で傷を隠した。研究者たちは、ラクスが約30分間植物を食べ、翌日も2分間食べるのを観察した。また、ラクスが普段より多くの睡眠時間を取っていることにも気づいた。睡眠は成長ホルモンを放出し、タンパク質を合成し、細胞を分裂させ、これらを通じて傷の治癒は促進される。
ラクスが初めて顔に植物の汁を塗っているのが見られてから5日目には傷口は閉じ、感染の兆候もなかった。その後3週間で完全に治癒し、小さな傷跡だけが残った。
ラクスが選んだツル植物は、人間が赤痢、糖尿病、マラリアなどの症状を治療するために伝統医学でよく使用される植物の一種であり、抗炎作用や鎮痛作用など、さまざまな効能があることで知られている。
研究者たちは、ラクスの自己治療行動が、人間の傷の治療の起源に関する手がかりになるかもしれないと示唆している。傷の手当ては、紀元前2200年に遡る医学文献に初めて記録されている。
論文の筆頭著者でありマックス・プランク動物行動研究所を拠点とするキャロライン・シュップリ (Caroline Schuppli) 氏はガーディアン紙に対し「このような行動を思いつくために必要な基本的認知能力は、先祖が同じだった時代の最後の頃には存在していた可能性が高いことは間違いありません」と語った。「つまり、非常に遠い遠い昔に遡るのです」
ラクスがどのようにして自己治療を学んだのかはまだわかってはいないが、研究者たちは「個体革新」の可能性を示唆している。鎮痛作用のある葉のエキスが傷口に偶然触れ、その効果に気づいたのかもしれない。あるいは、オランウータンは社会的にスキルを習得することで知られているため、他のオランウータンからそれを学んだのかもしれない。
研究者たちは次に他のオランウータンを詳しく観察し、それらがラクスと同様の医学的知識を持っているかどうかを調べる計画である。
共同著者でありマックス・プランク研究所のイザベル・ラウマー (Isabelle Laumer) 氏はBBCに対し「今後数年間で、さらに多くの人間に近い行動や能力を発見すると考えています」と語った。