アジアではPM2.5による早期死亡者数が最も多く、その数は何と9810万人にものぼった。(2024年8月1日公開)
シンガポールの南洋理工大学 (NTU) の研究者たちが中心になって研究を行ったところ、1980年から2020年の世界の早期死亡者数のうち、微粒子状物質は約1億3500万人と関連していることが判明した。アジアではPM2.5汚染を原因とする早期死亡者数が最も多く、その数は何と9810万人であった。中国とインドはそれぞれ4900万人と2610万人だった。
パキスタン、バングラデシュ、インドネシア、日本でも、PM2.5による早期死亡者数は200万人から500万人とかなりのものであった。この研究はEnvironment International誌に発表された。PM2.5とは微粒子状物質のことであり、直径2.5マイクロメートル以下の粒子状物質を指す。
この微粒子状物質は自動車の排気ガス、産業活動、および山火事や砂嵐などといった自然現象から発生する。PM2.5粒子は小さいため、呼吸する空気から容易に肺に入り込む。特に子供、高齢者、呼吸器疾患のある人などリスクの高い層にさまざまな健康問題を引き起こす。また、早期死亡にもつながる。この研究は、早期死亡を、疾患や環境要因など、予防可能または治療可能な原因により、平均寿命に基づいて予測される時期よりも早く死亡することと定義している。
研究チームは世界の大気質と気候を調査し、40年以上にわたるデータを分析した。特定の気象パターンがさまざまな地域の大気汚染に与える影響を調査し、気候と大気質の複雑な関係に関する新たな知見を生み出した。
PM2.5データの分析は1980年1月から2020年12月までの40年間を対象としており、特定地域の大気質に関する包括的な詳細を提供している。
このために、チームはまず死亡率への影響を知るために、NASAの衛星データを使用して地球の大気中の微粒子状物質 (PM2.5) の濃度を分析した。チームはMERRA-2 (研究と応用のための現代遡及的分析 (Modern-Era Retrospective Analysis for Research and Applications) バージョン2) として知られているデータコレクションの情報を使用した。このコレクションはNASAにより管理されており、地球表面に存在する微粒子状物質の濃度のデータを毎月提供している。
チームは次に、米国にある保健指標評価研究所が持つ汚染関連疾患の発生と死亡率に関する統計を評価した。チームは、米国海洋大気庁の指標を使用して計算されたエルニーニョ南方振動、インド洋ダイポール現象、北大西洋振動などの気象パターンが大気質の変化に与える影響についても調べた。
その結果、微粒子状物質による汚染の影響は上記の気候変動現象によって悪化し、早期死亡は14パーセント増加したことが分かった。
チームの説明によると、気温の上昇、風向きの変化、降雨量の減少により、悪天候時には空気が静止し、汚染物質が大気中に蓄積していくと考えられる。するとPM2.5粒子の濃度が上昇し、特に吸引時に人間の健康に悪影響を及ぼすことがある。
チームは、エルニーニョ南方振動、インド洋ダイポールモード現象、北大西洋振動のという3つの気象現象が組み合わさると、早期死亡は毎年世界中で約7000人増加すると概算した。
また、過去40年間に世界中で363件、平均して毎年9件の重大な大気汚染現象が発生していることも分かった。これらの現象の期間は2か月間から9か月間と、さまざまであった。3つの気象パターンは1994年、1997年、2002年、2015年に集中しており、東南アジア地域が最も大きな影響を受けた。これらの気象パターンにより汚染が悪化し、東南アジアでは死亡者が毎年約3100人増加した。2002年には最高記録となる15件の大気汚染現象が発生した。次に多かったのは2004年と2006年であり、それぞれ14件の現象が発生した。
研究リーダーでありNTUアジア環境学院およびリーコンチアン医科大学 (LKCMedicine) のスティーブ・イム (Steve Yim) 准教授は「研究から、気象パターンの変化が大気汚染を悪化させる可能性があることが分かりました。エルニーニョのような特定の気象現象が発生すると、汚染の程度が悪化し、そしてPM2.5汚染のために早期死亡が増える可能性があります。つまり、大気汚染対策に取り組み世界中の人々の健康を守るためには、気象パターンを理解し、考慮する必要があることが明らかなのです」と語る。
論文の共同執筆者であり、NTUのLKCMedicine学部長であるジョセフ・ソン (Joseph Sung) 氏は「私たちの研究は、気象パターンが大気汚染に与える影響を明らかにします。これは公衆衛生に直接影響するため、医療従事者にとって極めて重要です。気候変動や環境が人間の健康に及ぼす影響は、遺伝子や生活習慣が与える影響に劣るものではなく、過去数十年にわたって増加し続けています。医療従事者は、これらのパターンを理解しておけば、汚染関連疾患の治療が必要な患者の増加に備えることができます。さらに、この知識があれば、汚染を削減し、汚染が健康に与える影響を緩和するための積極的な対策の重要性を十分理解できますし、最終的には、医療制度が汚染関連疾患を管理し、地域社会への負担を軽減するのに役立ちます」と付け加えた。