母方の祖父母は独特の立場にいて、母親のニーズに最も合った形で育児を支援する。(2024年8月29日公開)
平均寿命が延び、小家族化が進み、母親は外で働き、ひとり親家庭が増加する中で、祖父母や家事支援者が育児の責任を共有するようになってきている。しかし、この変化が家族の幸福に及ぼす影響を調べる研究は限られている。
この問題に対処するため、シンガポールの南洋理工大学 (NTU) の研究者チームが数百組の母子を対象に調査を実施したところ、自分の両親から育児を助けてもらっている母親は、そうでない母親よりも、子どもに親らしい温かさを示す傾向があることを発見した。この調査結果は、Journal of Marriage and Family誌に発表された。
女性の社会進出が進むにつれ、共働き世帯に対する育児支援は不可欠になってきている。中国など多くの文化では、祖父母の育児への関与はよく見られる。2008 年に中国で行われた調査では、祖父母の 58% が孫の育児に関わっていることが分かった。共働き夫婦の間で仕事と家庭の両立の難しさが高まる社会では、育児を助けてくれる家事支援者の需要も高まっている。
チームはこの研究の中で、育児介助者とは、毎週少なくとも2時間子供と過ごし、学校への送り迎え、寝かし付け、入浴、学業の手伝い、外出など、子供の日常生活の特定の部分に責任を持つ者であると定義した。
この多国籍研究チームは、オランダのアムステルダム自由大学や米国のハーバード・T・H・チャン公衆衛生大学院などといった組織だけでなく、A*STARのシンガポール臨床科学研究所、KK女性・小児病院、シンガポール国立大学ヨン・ルー・リン医学部国立教育研究所の研究者も含めて構成されていた。
チームは、「シンガポールでの成長、健全な結果に向けて (Growing Up in Singapore Towards healthy Outcomes : GUSTO) 」コホート研究に参加した615組の母子の育児体制データを分析した。4歳半から6歳の子供たちがこの研究の対象となった。
育児介助は両親による育児の負担を現実的にも感情的にも軽減できるが、これまでの研究では、育児介助は父親よりも母親に大きな影響を及ぼす可能性があることが示されているため、この研究では、母親に焦点を当てた。
母子は、育児介助者のタイプに基づいて、支援なし、家事支援者、母方の祖父母、父方の祖父母、母方と父方の祖父母という5つのグループに分類された。
研究対象となった615組の母子のうち、子どもが4歳半のときに育児体制に関する情報を知っていたのは446組、6歳の時に知っていたのは514組であった。
チームは母親に対して、子供が4歳半と6歳のときの子育てや幸福感、子供が6歳になったときの家族の機能など、家族の幸福の結果を記録するよう依頼した。その後、チームは、それぞれのグループの育児体制と家族の幸福の結果との関連性を調べた。
子供たちに対しては10歳のときに、検証済アンケートを使用してうつ病の兆候、例えば非常に自己批判的になったり、睡眠や食習慣に乱れを感じたりするなどといったことを確認するよう依頼した。
その後、チームは、このアンケート結果と育児方法の間に関連性があるかどうかを調べた。その結果、子供たちが6歳のとき、自分の両親の支援を受けていた母親は、前向きに子供を育て、温かさと応答性、そして活気的な家庭環境という特徴を見せることが分かった。
NTUの早期認知研究室の主任研究員であるセトー・ペイペイ (Setoh Peipei) 准教授によると、共働き世帯が増えたため、祖父母や家事支援者が育児に関わる傾向が強くなっている。ペイペイ准教授は、母方の祖父母、父方の祖父母、および親族以外の援助が、孫の結果と家族の幸福に与える長期的な影響を理解する必要性を強調した。
NTU社会科学部の心理学部門にも所属するペイペイ准教授は「母方の祖父母、父方の祖父母、家事支援者は、いずれも育児に関して現実的な支援や精神的な励ましを提供できる可能性がありますが、私たちの研究では、母方の祖父母による育児支援が最も有益であることがわかりました。この結果は、母方の祖父母は、おそらく共通の価値観を持ちコミュニケーションをしやすいため、独特の立場から母親のニーズに最も合った形で支援を提供できるという、以前の研究で紹介された考えを裏付けるものです」と述べた。
この研究はシンガポールで実施されたが、チームは、母方の祖父母と父方の祖父母による支援の違いは、文化的に祖父母の育児への関与があるとされる他のアジア諸国にも当てはまる可能性があると語った。
チームは、母方の祖父母の恩恵が、孫が十代になっても青年になっても続くかどうか、そしてそれが家族の人生の進路に影響するかどうかを調べることにも興味を持っている。