【AsianScientist】伝染性の高い真菌カンジダ・アウリスの新分岐群が発見される

この研究は、機械学習は異常ゲノムを自動的に検出して監視を改善できることを証明した。(2024年9月20日公開)

シンガポールの研究者チームは、耐性が高く伝染しやすい真菌であるカンジダ・アウリスの新しい分岐群を特定した。この発見により、世界リストに6番目の分岐群が加わった。カンジダ・アウリスは、伝染性が高く、いくつかの治療に耐性があり、アウトブレイクを引き起こす傾向があるため、世界中で健康への大きな懸念となっている。この発見はシンガポール総合病院、A*STARのシンガポールゲノム研究所 (GIS)、シンガポール国立大学ヨン・ルー・リン医学部 (NUS Medicine) の研究者たちによりなされ、The Lancet Microbe誌に発表された。

カンジダ・アウリス (C. auris) の根絶は困難である。主に重篤な基礎疾患を持つ患者に影響を与えるため、呼吸器や栄養チューブ、カテーテルなどの侵襲性医療機器を使用している人は、この真菌に感染し、表面的なものから命を脅かすものまでさまざまな感染症を発症するリスクが高くなっていく。

2022年、世界保健機関はC. aurisを研究と公衆衛生活動の重要な優先リストに含めた。この真菌の治療はますます困難になっていることから、米国疾病予防管理センターもこの真菌を「切迫した薬剤耐性の脅威」と宣言し、また、この公衆衛生上の脅威を理解し、軽減する必要性を重要視している。

この論文の共同筆頭著者であるカリー・コー (Karrie Ko) 氏は「6番目のカンジダ・アウリス分岐群が発見された今、医療機関が出現を注意深く監視し、もし発見されたならば拡散を阻止できるように、監視能力を向上させるか、現在の監視戦略を強化する新しい方法を開発することが急務です」と述べた。彼女はシンガポール総合病院微生物学科のコンサルタントであり、シンガポール保健省およびデューク大学シンガポール国立大学医学部が実施する病理学学術臨床プログラムのゲノムディレクターである。

これまでに、分岐群I(南アジア)、分岐群II(東アジア)、分岐群III(アフリカ)、分岐群IV(南アメリカ)、分岐群V(イラン)という地理的に異なる5つのC. aurisの分岐群が特定されている。シンガポールで独立して発見された分岐群VIは、特定の地域との関連はまだわかっていない。

シンガポール総合病院は、入院時に定期的なスワブ検査を行いC. aurisの高リスク患者をスクリーニングするという積極的監視プログラムを実施している。陽性反応が出た患者は直ちに隔離され、同じ病棟や病室にいる入院患者全員に検査を行い、感染拡大を抑える。

新しい分岐群は、2023年に1人の入院患者がC. aurisの検査で陽性反応を示したことから発見された。この検査は海外旅行時によく行われる検査であったが、患者はそれまでの2年間はシンガポールから外に出ていなかったため、さらに調査が必要となった。

シンガポールゲノム研究所の研究者たちは新しいC. auris分岐群の可能性を追跡しようと機械学習技術を開発した。その後、C. aurisゲノムを再構築し、ゲノムの詳細な特性評価を行って新しい分岐群の出現を確認した。研究チームは、患者が他の5つのC. aurisとは遺伝的に異なる分岐群のC. aurisに感染したことを発見すると、直ちに病院のアーカイブを調べ、他に2例があることを見つけた。

論文の上級著者であるニランジャン・ナガラジャン (Niranjan Nagarajan) 准教授は「ゲノム監視は、新興病原体を理解する上で欠かせません。ゲノミクス、メタゲノミクス、そして研究者と臨床医の共同作業を統合すれば、パンデミックに備え、公衆衛生上の脅威への対応を常に強化することができます」と述べた。ナガラジャン准教授はNUS医学部の感染症トランスレーショナルリサーチプログラムを担当しており、A*STARのGISのゲノム・アーキテクチャ副所長であり、メタゲノム技術および微生物システム研究室の上級グループリーダーでもある。

現在、研究者たちは、新しい分岐群の早期自動検出が可能な概念実証的機械学習アプローチに取り組んでいる。このアプローチは、シンガポールのようにインバウンドが多い地域ハブにとって、新たな公衆衛生上の脅威を早期に監視・特定する上で特に重要であることが論文の中で述べられている。

論文の共同筆頭著者であり、A*STARのGISの上級科学者であるチャヤポン・スパビライ(Chayaporn Suphavilai) 氏は「この研究は、機械学習アプローチは異常な外れ値ゲノムを自動的に検出し、監視能力を向上できることを実証しました。私たちの人間参加型機械学習ワークフローは、潜在的な新しいゲノムをできるだけ早く検出して調査できるようにするために新しいデータからの継続的な学習を促進します。これは、新たな公衆衛生への脅威に対する監視を強化できる可能性があります」と述べた。

この論文は、分岐株VI C. aurisの発生源、危険因子、地理的関連性、病原性、アウトブレイクの可能性は依然として不明であるため、患者の安全を確保するためには、早期発見と封じ込めを優先することが不可欠であるとしている。

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