【AsianScientist】気候変動は熱帯低気圧を激化させ長期化させる

東南アジアには人口密度の高い沿岸部があり、現在、そこには世界人口の70%以上が居住している。(2024年9月25日)

東南アジアの熱帯低気圧は、現在、沿岸部の近くで発生するようになった。勢力は急速に発達し、陸上に長くとどまるようになった。これらはすべて気候変動を原因としている。このような変化により、沿岸地域に住む数千万人の人々のリスクは大きく高まった。タイのバンコク、ベトナムのハイフォン、ミャンマーのヤンゴンなどの都市は、長期化・激化する暴風雨による前例のない脅威にさらされている。

米国のローワン大学、シンガポールの南洋理工大学 (NTU)、米国のペンシルベニア大学の研究者が共同で進めた最近の研究で、この憂慮すべき傾向が浮き彫りになった。NTUの気候変革プログラムの一環として行われたこの研究から、気候変動が東南アジアの熱帯低気圧の進路と性質を変えていることが分かった。

熱帯低気圧は通常、赤道近くの熱帯地域で発生する。暖かい海水が特徴であり、低気圧が発達して強度を高めるのに必要な熱と湿気を提供する。

研究論文の主著者であるローワン大学地球環境学部のアンドラ・ガーナー (Andra Garner) 助教授は 「東南アジアの沿岸部は非常に人口密度が高く、現在、将来の海面上昇の影響を受ける世界人口の70%以上が住んでいます。この人口密度の高い沿岸部は熱帯低気圧の影響を受ける地域であることから、特に人口増加が続く中で暴風雨の被害が大きくなれば、リスクは現実のものとなります」と語る。ネイチャー・パートナー・ジャーナルであるClimate and Atmospheric Science誌に発表されたこの研究は、東南アジアの熱帯低気圧の動きに大きな変化があることを力説している。たとえば、熱帯低気圧の発生場所は沿岸に近づいており、陸地を低速度で移動するようになってきたため、東南アジア地域に新たなリスクをもたらす要因となる。

この研究は複数の気候モデルのデータを使用して3世紀にわたる低気圧を調査する初めての試みであり、過去と未来(19世紀から21世紀末まで)の64,000件を超える低気圧モデル分析に基づいて行われた。

研究チームは、世界中の海水温の上昇が熱帯低気圧を作り出していると語る。海水温が上昇すればするほど、低気圧がそこから引き出すエネルギーは大きくなる。

NTUのシンガポール地球観測所所長で研究論文の共著者であるベンジャミン・ホートン (Benjamin Horton) 教授は「熱帯低気圧は、東南アジア全域で豪雨と大洪水を引き起こし、大規模な避難の原因となり、インフラを破壊し、何千人もの人々の生命と生活に影響を及ぼしています。私たちの研究によれば、低気圧は気候変動によって温暖化した海を移動するときに今までより多くの水蒸気と熱を取り込みます。このことは、台風が陸地を直撃すると、風はさらに強く、雨はさらに激しく、洪水はさらに増えることを意味するのです」と話す。

従来の研究は過去の気象パターンや暴風雨に関するものだったが、チームはこの研究で、予測される人為的排出量の増加や、排出量が地球温暖化に与える影響など、さまざまな要因を操作するためにコンピューターシミュレーションを調整した。このようなシミュレーションを行うことで、気候変動が低気圧の形成、強化、減速、そして最終的な消滅の場所をどのように変化させているかについて、重要な情報を得ることができた。

NTUのシンガポール地球観測所の上級研究員であり研究論文の共著者であるデュルバジョティ・サマンタ (Dhrubajyoti Samanta) 氏は「私たちの研究は長期間にわたって暴風雨を調べることにより、政府が将来の暴風雨に備え、コミュニティ開発計画を進めるのに役立つ情報を提供します。この研究は9つの地球気候モデルを活用しているため、熱帯低気圧の変化の予測につきものの不確実性は大きく減少します。過去の研究は単一モデルのみを使用していたため、予測は困難だったのです」と語る。

共著者でありペンシルベニア大学地球環境科学部に属するマッケンジー・ウィーバー (Mackenzie Weave) 氏は「長期分析を行うと、熱帯低気圧の進路の変化を過去と将来の両方について理解を深めることができます。そして近い将来と遠い将来の両方に関して、沿岸の回復戦略に情報を提供することができます」と付け加えた。

「2つの収穫がありました。一つは、将来の暴風雨の影響を抑えるために、排出量を削減する行動を取るべきということです。もう一つは、沿岸部を守る行動を、今、すべきだということです。沿岸部では将来の排出量に関係なく、熱帯低気圧の影響が悪化する可能性が高いのです」とガーナ―助教授は述べた。

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