国立スーパーコンピューティングセンター (NSCC) シンガポールは、国立研究財団 (NRF) から2億7000万シンガポールドルの助成金を受け、シンガポールの研究コミュニティを支援し、国の高性能コンピューティング能力を発展させる計画を発表した。(2024年12月17日公開)
NSCCシンガポールは、同国最新の高性能研究用スーパーコンピューターであるASPIRE 2AとASPIRE 2A+の運用を開始した。これら2つのシステムは研究者、中小企業、新興企業が利用可能であり、すでに大きな成果を上げている。
公式の運用開始時において、副首相でありNRFの会長であるヘン・スイキャット (Heng Swee Keat) 氏は、次世代スーパーコンピューターの構築と地元のスーパーコンピューター人材の育成を支援するため、国がNSCCシンガポールに2億7000万シンガポールドルを拠出すると発表した。
これらのスーパーコンピューターはシンガポール国立大学イノベーション4.0 (i4.0) ビルのNUS-NSCC i4.0データセンターに設置されており、ユーザーは自分のコンピューターを使ってどこからでもアクセスできる。
シンガポールの現在の高性能コンピューティング (HPC) の主力設備として機能するASPIRE 2Aは、気候と天気、材料と化学科学、遺伝学と医学、高度なモデリングおよびシミュレーション、ビッグデータ分析など、さまざまな分野にわたる計算集約型研究を支えている。
ASPIRE 2Aは最近役目を終えたASPIRE 1の7倍の計算能力を持ち、搭載しているNVIDIA画像処理装置 (GPU) の数は2倍である。具体的には、ASPIRE 2Aには352個のNVIDIA A100 TensorコアGPUが備わっており、各GPUは標準的な消費者向けノートパソコンの約200台分の計算能力を備えている。
ASPIRE 2A+も同じデータセンター内に設置され、最新のNVIDIA H100 GPUで動作し、NVIDIA A100 GPUの約3倍の速度を持つ。FP64という高精度のTensorコアで推定20ペタフロップスの基本計算能力を持つASPIRE 2A+は、シンガポールの人工知能 (AI) の試みを専門的に扱い、国のAI for Scienceプログラムに従い研究を支援する。
「私たちは研究コミュニティのニーズに寄り添います。現時点では間違いなく[コンピューティング能力に対する]需要が増加していると考えます」とNSCCの最高責任者であるテレンス・ハン (Terence Hung) 博士は述べた。「今後数年間、需要が増加し続ければ、エクサスケールの計算能力を提供しなければならないでしょう。それを単一のシステムで実現するか、さまざまな連携により実現するかについては、まだ検討中です」
新しいスーパーコンピューターを使用するプロジェクトのうち、特に重要なものとして第3次国家気候変動研究 (V3) が挙げられる。ASPIRE 2AとASPIRE 2A+は、シンガポールの上空100kmから2kmまで地球気候モデルをダウンスケールして、東南アジアで最も解像度の高い気候予測を行うために導入された。解像度が向上することで、研究者による予測の正確性は高まり、地域の気候政策に反映させることができる。
国家環境庁シンガポール気候研究センター所長であるデール・バーカー (Dale Barker) 教授は「AIを利用する予測や、物理モデルとAI気候モデルの『ハイブリッド』の台頭は、異常気象や気候変動がもたらす広範な影響に備えようとするシンガポールの能力に潜在的な変化をもたらす可能性があります」と語った。
今後、NSCCシンガポールは、2025年後半に次のスーパーコンピューターの運用を開始する予定である。このシステムは、従来のスーパーコンピューティングと量子コンピューティングの橋渡しをすることに重点が置かれている。
NSCCシンガポールはまた、NRF助成金を利用してシンガポールの高性能コンピューティング業界の人材とスキル開発を支援しようとしている。NSCCは地元の大学、研究機関、民間企業と連携し、新しいツール、アプリ、ソフトウェアを作成する人材を指導し、研修を行おうとしている。
ハン博士は「NSCCでは、提供するベアメタルサーバーとテクノロジーにとどまらない価値提案を行っています。スーパーコンピューターに加えて、私たちはHPC能力および多様性の拡大、組織力および運用力の強化、ならびに人材育成およびユーザーの飛躍的進歩の実現という3つの重要分野に力を注いでいます」と語る。