Gα13 は多くの場合、がんの増殖と関連しているが、エストロゲン受容体陽性乳がんに対しては保護効果を持ち、乳がんに見られるサブタイプの複雑性を表している。(2025年2月14 日公開)
乳がんは単一の疾患ではない。乳がんは出生時に女性と判断された人に最も多く診断されるがんであるが、さまざまなサブタイプとして現れ、分子経路と治療に対する反応はそれぞれ異なる。研究者はそれらの微妙な違いを理解することで、さらに優れた治療法を作り出すことができる。
たとえば、エストロゲン受容体 (ER) 陽性乳がんでは体内を循環するホルモンが腫瘍細胞のタンパク質に付着して増殖を加速する。ほぼ半分の症例で、抗エストロゲン薬を投与する初期治療後に再発するのだが、その理由は依然として不明である。
今回、Breast Cancer Research誌に発表された新しい研究で、シンガポール国立大学 (NUS) の研究者は、かつてはさまざまながんを引き起こすと考えられていたGα13と呼ばれるたんぱく質が、実際にはER陽性乳がんの進行を遅らせることを発見した。サブタイプは症例の80%と関連し、死亡の大部分を占めるが、この発見により、サブタイプの薬剤耐性を克服する新しい戦略が作り出されるかもしれない。
細胞内のGα13 は通常、細胞表面の受容体からの信号を中継し、細胞の行動、成長、分裂、環境との相互作用を制御するプロセスを活性化する。Gα13の濃度が高まると、卵巣がん、前立腺がん、トリプルネガティブ乳がんなどのがんと関係すると考えられてきた。だが、Gα13 が B 細胞リンパ腫や膵臓がんの腫瘍抑制因子として機能する可能性を示す研究もある。
Gα13 の役割はがんによって異なる可能性があると考えた本研究のチームは、Gα13 の濃度が高くなるとER陽性乳がん患者の生存率が高くなることを発見した。研究室で3 つの異なる ER陽性乳がん細胞株とマウスモデルを使い実験したところ、Gα13 が細胞分裂を制御し、その遺伝子発現を抑えるとがん細胞の増殖が促進されることが明らかになった。
RNAシーケンシングにより、Gα13 をコードする遺伝子が、MYC の活性を制限するのに役立つことが説明された。MYCは確立されたがん遺伝子であり、ER陽性乳がんの治療抵抗性に寄与する。
デューク-NUS医学部(Duke-NUS Medical School)で博士号を取得し、現在はデューク大学薬理学癌生物学部のポスドク・フェローである筆頭著者のラリサ・スブラマニアン (Lalitha Subramanyan) 氏は「私たちの研究結果は、Gα13が様々な腫瘍の種類で常にがんの増殖を促進するというこれまでの考えに疑問を投げかけるものです」と述べた。「その代わりに、Gα13がエストロゲン受容体陽性乳癌の有害な経路を阻害し、がん細胞の増殖を遅らせたり止めたりできることを示唆する証拠を発見しました」
この研究は、乳がんにおける Ga13 の保護効果を示す最初の証拠を示す。がん生物学に見られる複雑で多様な性質を明らかにし、特定の状況における分子経路の調査の重要性を強調する。
共同著者でありデューク-NUS医学部のがん幹細胞生物学プログラムに関わるメイ・ワン (Mei Wang) 准教授は「がん形成における Gα13 と関連タンパク質に関する理解を深めるだけでなく、私たちの研究結果は再発性ER陽性がんを標的とする新たな視点も提供します」と述べる。
研究チームは今後、Ga13が他のホルモン感受性がんにどのような作用を起こすのか調べようとしている。