胎児はかつて、母親の免疫力のみに頼っていると考えられていた。だが、胎児の免疫細胞はジカウイルスに対して独特の方法で対応している。(2025年4月4日公開)
胎児は子宮の中に隔離されてはいるが、母親からのウイルス感染に対して脆弱であることには変わりなく、死亡や長期的な合併症のリスクがある。
現在、Cell誌にシンガポール国立大学 (NUS) のデュークNUS医学部の研究チームが中心となって行われた新しい研究が発表されている。その研究が述べるところによると、今まで、胎児の免疫システムは過小評価されていたかもしれない。
この研究論文の筆頭著者であるデュークNUSの新興感染症プログラムのアシュリー・セント・ジョン (Ashley St John) 准教授は「今まで、妊娠初期の胎児は自力で生き延びることができず、感染に対する防御は主に母親の免疫システムに頼っていると思い込んでいました。しかし、胎児自身の免疫システムは、これまで考えられていたよりもはるかに早く感染に対する防御を行えることが分かったのです」と述べた。
セント・ジョン准教授とそのチームは、胎児の宿主反応とそれが妊娠の結果に与える影響について詳しく調べたいと考えていた。研究チームには、シンガポール国立大学、科学技術研究庁 (A*STAR)、中国の上海交通大学などが協力し、参加していた。
研究チームは、母親から胎児へのジカウイルスの感染について調査した。ジカウイルスに感染すると、先天性ジカ症候群 (CZS) と呼ばれる多臓器疾患が引き起こされ、胎児の発育は危険にさらされる。フランス領ポリネシアとブラジルでは、CZSの流行と小頭症(異常に小さな頭と未発達の脳を特徴とする先天異常)の赤ちゃんの出生急増が同時期に起きた。
それでも、ジカウイルスに曝露した胎児の多くは、神経損傷を受けても生存し、脳に見られる先行炎症の跡は、胎児も抵抗できることを示している。
チームはCZSのマウスモデルを使用して、特定の免疫細胞集団を選択的に除去し、それぞれが感染にどのように反応するかを調べた。
チームはミクログリアに注目した。これは脳内に存在し、ニューロンの成長を支え、老廃物を除去し、余分な接続を切り取ることで脳の発達を形作る免疫細胞である。マウスモデルでも、研究室で培養されたヒト脳オルガノイドと呼ばれるミニ脳でも、ジカウイルス感染に反応して活性化したミクログリアは保護的な役割を果たした。ウイルスの複製を阻害し、神経炎症を制限するのに役立った。
しかし、胎児の免疫反応は有害になることもある。たとえば、単球は脳損傷の一因となった。単球とは白血球である。白血球は発達の後半に現れ、感染中に胎児の脳に侵入し、有害な炎症を引き起こした。これには、活性酸素種 (ROS) の生成に関連するNos2などの遺伝子の発現の増加が含まれる。ROSは、ニューロンを殺し、成熟を妨げる有害な分子である。
Nos2の機能を阻害する実験としてマウスに抗炎症薬を投与したところ、症状は改善した。これは、Nos2を標的とすることが、脳の炎症を引き起こすジカウイルス感染症やその他のウイス感染症に対する治療戦略となる可能性があることを意味する。
「私たちの研究から、胎児の免疫反応は保護として機能することも、有害になることもあると分かりました。さまざまな免疫細胞が胎児の免疫保護に果たす役割を知ることは、妊娠の転帰を改善する方法を模索し続ける上で重要です」とセント・ジョン准教授は述べている。