【AsianScientist】腸内細菌が不安の管理に役立つ可能性

ある研究では、マウスを使い腸内微生物とその化学副産物が脳の活動に影響を与えて不安を調節する仕組みについて調べている。(2025年4月15日)

不安感は、潜在的な危険に対する自然なストレス反応である。しかし、ストレスが長期にわたると、脳のストレス調節システムは過剰に活性化し、ホルモンバランスが崩れ、不安障害に見られるような永続的な行動変化が引き起こされることがある。

最近の新しい研究から、不安の調節は脳だけの問題ではないことが分かった。シンガポール国立大学 (NUS) のデューク-NUS医学部とシンガポール国立神経科学研究所の研究チームは、腸内微生物とその化学的副産物が、不安関連行動に関わる脳の活動にどのような影響を及ぼすのかを明らかにした。チームの研究結果はEMBO Molecular Medicine誌に掲載され、プロバイオティクスがメンタルヘルスを改善する新しい方法となることを述べている。

不安を抱える患者の多くは、消化器系の問題を抱えている。事実、マウスを使った研究により、腸内微生物叢が脳の化学と不安反応を調整する役割を果たしていることは明らかになっている。しかし、これらの常在微生物と不安に関連する脳の変化を結び付ける正確な生物学的経路は分からなかった。

この関係を調べるために、研究チームは無菌 (GF) マウスを使い研究を行った。GFマウスとは微生物に一切さらされることなく育てられたマウスのことである。チームは、オープンフィールド高架式ゼロ迷路試験を実施してマウスの不安レベルを調べた。この試験は、マウスが高所の開放された場所を探索する意欲と閉鎖された空間に留まる意欲を比較する試験である。対照群と比較して、GFマウスは不安な行動を示し、開放された空間を頻繁に避けた。

電気生理学的記録から、恐怖と不安を処理する重要な脳領域である扁桃体外側基底核 (BLA) の活動が急増していることも明らかになった。細胞レベルで見ると、BLAニューロンのこの過剰興奮は、ニューロンの発火を抑制する特殊なタンパク質であるカルシウム依存性SK2チャネルの機能低下に起因することがわかった。

筆頭著者の一人であり、デューク-NUSの神経科学・行動障害プログラムのヒョンス・ショーン・ジェ (Hyunsoo Shawn Je) 准教授は「基本的に、これらの微生物が少ないと、特に恐怖と不安を制御する脳の領域の機能を乱し、不安行動につながります」と語る。

その後、チームは生きた微生物の導入又はGFマウスへのインドール補給を行った。インドールは重要な微生物化合物であり、恐ろしい状況が脅威でなくなったとき、脳が認識するのを助けてくれる。どちらの介入もBLAの活動を正常化し、不安行動を軽減した。

これにより、腸脳相関を標的にし、あるいはインドール産生微生物をプロバイオティクスとして導入して、不安障害やその他の精神疾患の管理に役立てる新たな可能性が開かれた。

「つまり、21世紀の精密医療に沿ったオーダーメイドの治療への道が開かれたのです」と、もう一人の筆頭著者でありシンガポール国立神経科学研究所の研究部門のスヴェン・ペッターソン (Sven Petterson) 教授は述べた。 「このような研究は、私たちの体内にいる微生物と高度で複雑な生物との間に存在する密接な遺伝的関係を解明します」

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