シンガポール工科大学の研究者たちは、アジア人にとって身近で手頃で健康的な選択肢を作るために、地元の味を取り入れた地中海食を創作している。(2025年4月24日公開)
地中海周辺の文化にヒントを得た地中海食 (MedDiet) は、その健康効果ゆえに幅広い支持を得ている。食物繊維と一価不飽和脂肪酸を多く含み、砂糖と加工食品が少ないため、心臓病、糖尿病、さらにはがんのリスクを軽減することが可能であり、多くの科学者の関心を集めている。
しかし、全ての人がMedDietを取り入れることは、現実にはありそうもない。地中海食というと、オリーブオイルをかけたサーモンのたたき、フェタチーズをトッピングした新鮮な野菜サラダ、そしておそらくグラス一杯の赤ワインを思い浮かべることであろう。美味ではあるが、これらの料理はアジアで日常的に食べられる一般的な食事ではなく、購入したり調理したりすると地元の料理よりも費用がかかることが多いため、アジアの栄養学者にとって、地中海食は病人にお勧めできるものではない。
シンガポール工科大学 (SIT) の健康・社会科学群のベレーナ・タン (Verena Tan) 准教授は、臨床栄養士だった15年前にこの問題に気がついた。現在、学者である彼女の夢は、地中海食 (MedDiet) の地域版であるアジア風地中海食を創作することである。
「毎週地中海食レストランで食事をするのは、ほとんどのシンガポール人にとって現実的ではありません。さらに、地中海風の食品は、地元のスーパーで見かけることはほとんどありません」と彼女は説明した。「シンガポールでは、地中海食に関する知識、特に食材をうまく組み合わせて地中海食を再現するための知識はまだ限られています。このことを理解していないと、アジアで地中海食を続けるのはかなり難しいかもしれません」
この問題を解決するために、タン准教授と彼女のチームは、地元で入手できる食材を使用して、朝食、昼食、夕食、午後のおやつを含めた4週間のアジア版MedDietメニューを開発した。MedDietを対象とした研究は数多くあったものの、その構成を正確に定めたものはなかった。MedDietのようにするために、SITチームはまず地中海食を定量化し、効果的な分量と栄養素を特定する必要があった。
タン准教授は「私たちのアプローチは、まずMedDietについて徹底的に理解することから始まりました。つまりマクロ栄養素の観点から、また微量栄養素と生理活性成分の観点から、何が含まれているかを知ることです」と語った。
チームは、まず栄養上の目標を確立してからその先に進んだ。手頃な価格と入手しやすさを優先して、地元であるシンガポールの食材を特定することができた。次に、これらの食材を使用して、チームが定めた栄養バランスに従い100を超えるレシピを開発するという骨の折れる作業を開始した。
ベレーナ・タン准教授は、ヒトの栄養、食事介入研究、アジアの人々のための新しいフードソリューションに興味を持ち研究している
これらのレシピを現実のものにするには、協力が必要だった。チームは航空関連サービス提供会社であるSATSと提携し、14種類の料理を作り、メニューの官能評価を行った。チームはシンガポール総合病院の肝臓専門医であるジョージ・ゴー (George Goh) 博士の協力を得て、30名の非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD) 患者に、このパイロット試験に参加してもらった。NAFLDという疾患は、MedDietで管理すると改善がみられる。
味、食感、香りなどの要素に基づいて評価したところ、ほとんどの料理が試験参加者から好意的な評価を受けた。これは、効果的な食事におけるおいしさの重要性を強調したタン准教授にとって、レシピ開発プロセスの成功を意味した。
「科学的に、食事を続ける要因となるのは味であることはわかっています。そのため、人々が食べ続けて健康上のメリットを享受できるように、アジアのMedDietレシピがおいしいものであることを確認する必要がありました」と彼女は述べた。
残った食品は、新たに開発されたアジア版MedDietと本来のMedDietの栄養学的類似性の検証分析を行うために、サンプルとして研究室に送られた。一方、タン准教授はデータ分析と研究結果をまとめている。彼女は今年後半にアジア太平洋心臓病学会と国際栄養学会議で研究を発表する予定である。
タン准教授が最終目標としていることは、手頃な価格で入手しやすいアジア版MedDietを提供して、シンガポールの人々に影響を与えることである。以前、7000人の参加者の健康状態を約5年間追跡調査した研究が行われ、MedDietと心血管イベントの減少を関連づけた。彼女は、シンガポールで、この包括的な介入研究をアジア人を対象として再現したいと考えている。これは、研究参加者の募集、食事の提供、食事の効果をモニタリングするための定期的な健康診断の実施などが含まれ、複雑な研究となる。
「介入研究は、実施が非常に困難で費用もかかることで知られています」と彼女は説明した。「3か月間、人々に食事を提供し、食料を配達し、バイオマーカーを追跡します。非常に集中的な仕事ですが、それが私の夢です」