【The Conversation】 ASEANの持続可能なデータセンターの未来—マレーシアの法的教訓が警鐘

東南アジアはデジタル革命を迎えている。人工知能(AI)、eコマース、クラウドコンピューティングの急速な発展に伴い、この地域は今や世界で最も意欲的なデータセンター開発の拠点となっている。

しかし、デジタル技術が東南アジア経済を変えていく中で、ASEANの法規制制度は依然としてデジタル化以前の時代に留まっている。

これは重要な疑問を提起する。「ASEANは、法律の近代化なしで、真に持続可能で回復力を持つデータセンター産業を構築できるのだろうか?」

マレーシア:デジタル化への意欲と時代遅れの法律

マレーシアは、その点について分かりやすい例となっている。2024年、マレーシアはマイクロソフト、グーグル、アマゾンウェブサービスから233億米ドルを超えるデータセンター投資を誘致した。

これらの投資は、マレーシアの現代デジタル経済を牽引すると見られている。この新たな発展により、マレーシアは東南アジアのテクノロジーハブとしての地位を確固たるものにすると期待されている。しかし、インフラが最先端となっても、それを支える法律はまだ整備されていない。

以下にその問題点を挙げる。

  1. マレーシア国家土地法(2020年改訂)は区画整理、土地利用計画、土地管理、登記を規定する。だが、この法は、データセンターという概念すら存在しなかった時代に立案された。この法は、条件や制限に関して、計画当局よりも大きな権限を州政府や土地管理当局に与えている。
  2. 1976年都市及び国土計画法(法律第172号)は地方計画当局に対し、環境庁、公共事業庁、灌漑排水庁、鉱物・地質科学庁といった専門機関さえも超える広範な権限を与えており、開発業者にとって承認手続の支障や混乱を招いている。この手続きを省略すると、罰金や資格剥奪につながることがある。

この法律は、今日の計画上の優先事項と公共のニーズをうまく反映させるために改正する必要がある。最近、ジョホール州は、水と電力の節約を理由に、データセンター建設申請の約30%を却下した。このことからわかるように、現在でも投資家は規制上の課題に直面する可能性がある。

  1. 1974年環境品質法(Act 127)に基づき義務となっている環境影響評価(EIA)は、環境に影響を与える可能性を持つデータセンターなどの大規模開発において不可欠なものである。執行は概ね整合性が取れているが、監督体制の弱さや、マレーシア各州における基準や解釈の違いにより、どのプロジェクトであってもコンプライアンス確保が課題となるであろう。
  2. 持続可能かつ安全な運用を実現するために、データセンターは1974年と1984年の道路、排水、建物、火災安全に関する規則も満たさなければならない。これらの規制の近代化に向けて、現代のインフラの進化するニーズ、国民のニーズ、そして国家の目標に対応しようとする継続的な取り組みが行われている。
  3. 「データセンター計画ガイドライン」は環境問題に対応するために2024年に導入された。このガイドラインは土地利用、エネルギー、水に関する要件について明確な指針を示しているが、あくまでも助言的なものであり、法的拘束力はない。

さらに悪いことがある。連邦憲法に基づく権限分割により、マレーシアでは連邦政府と州政府が特に行政事項において縦割りで活動することが多いのだが、このガイドラインでは、国の二重統治構造を克服することができない。この矛盾した法的環境のため、投資家にとっての不確実性、規制当局と開発業者にとっての支障、追加の経済的コストが作り出される。

国民にとって、これは、インターネット速度、サービスへのアクセス、そしてテクノロジー業界における雇用機会に影響を与えるデジタルインフラ構築の進捗が遅れることを意味する。

ASEAN諸国には似た問題がある

他のASEAN諸国も似たような問題に直面している。インドネシア、タイ、フィリピンは、断片化された規制、時代遅れの区画整理法、そしてあまり役に立たない環境監視に苦しんでいる。

この懸念は「ASEANデジタルマスタープラン2025」で注目を浴びた。マスタープランは、規制改革がなければ、ASEANは世界的なデジタル競争で後れを取るであろうと警告している。同様に、「ASEAN経済共同体ブループリント2025」は、インフラ投資を誘致するために、予測可能で透明性が高く、調和のとれた規制の確立を求めている。しかし、進展はあまり見られない。

「ASEANスマートシティ・フレームワーク」も、持続可能性の高いデジタルインフラの構築を求めている。加盟国に対し、分野をまたがるガバナンスモデルを導入することで、官僚主義的サイロを打破すべきと促している。

「ASEAN環境権フレームワーク」は、データセンターを含めたインフラ計画における環境的公平性の促進を始めようとしている。

しかし、これらの地域政策が効果を発揮するには、加盟国がそれらの実施に全身全霊を注ぐ必要がある。そうでなければ、政策は単なる願望にとどまり、実行可能なものにはならない。

シンガポールは、建築物環境持続法を使い持続可能性を強化し、冷房システムを熱帯気候に適したものにしている。

一方、アブダビ市はエスティダマ・パール評価・システムを活用し、あらゆる大規模開発において高いエネルギー効率と水効率を確保している。

これらの事例は、明確なルール、強制力、そして政府内のあらゆる階層による協力が存在する場合にのみ、持続可能なデータセンターは実現可能であることを示している。

ASEANの戦略的一手

では、ASEANは何ができるのか?

まず、ASEANは土地管理、計画、環境、建設に関する法律を整合させ、データシステムが国境を越えて繋がりやすいものにし、国際投資を惹きつけるようにする必要がある。これにより、ASEANは「ASEANデジタルマスタープラン2025」と「ASEAN経済共同体ブループリント」で設定された目標の達成に近づくことができる。

第二に、マレーシアやインドネシアのような国では、土地の承認を迅速化し、投資家にとって分かりやすくなるように、連邦政府、州政府、地方政府間の連携を強化する必要がある。

第三に、ASEANはデータセンターに関する共通の持続可能性基準を策定し、それをASEANの土地利用計画や環境権に関する目標と連携させ、世界的なESGベンチマークと整合させることができる。

データセンターは急速にASEANのデジタル経済の心臓部となりつつある。しかし、この心臓部は、過去に属する法的枠組みでは支えることができない。ASEANが真に持続可能なデジタル化した未来を望むなら、成長、環境問題、公共の利益のバランスを取る法律が必要である。

ASEANがマレーシアの経験から学ぶことができれば、スマートで持続可能なデジタルインフラの世界的なモデルとなることだろう。しかし、これらの教訓から学ぶことがなければ、ASEANの人々、投資家、そして環境は長期的なコストを引き受けなければならないと考えられる。

(2025年6月19日公開)

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