【AsianScientist】 オゾン汚染削減が東南アジアにおける早期死亡を防ぐ

東南アジアの大気汚染規制を強化すれば、2050年までに年間最大3万6000人のオゾン関連の早期死亡を防ぐことができるかもしれない。(2025年7月22日公開)

我々の頭上のはるか上空では、オゾン層が有害な紫外線から我々を守っている。しかし、地上ではオゾンは危険な汚染物質であり、温室効果ガスとして作用する。オゾンに何度も曝露すると、呼吸器疾患や心血管疾患が悪化し、早期死亡につながることがある。

地上のオゾンは、窒素酸化物 (NOx) が太陽光中の揮発性有機化合物 (VOCs) と反応して生成される。東南アジアでは経済発展に伴い、車両、工場、発電所からNOxやVOCsが排出されているため、オゾン汚染は深刻な問題となってきている。南アジアは熱帯地域であるため、植物から自然に発生するVOC排出量もかなりのものとなっている。

シンガポール南洋理工大学 (NTU) と香港中文大学の研究チームは、国際データベースの排出量と大気質データを基に、高度コンピュータモデルを用いて、様々なシナリオにおける東南アジアの将来のオゾン濃度を予測した。そして、各シナリオにおける健康影響評価を実施し、オゾン濃度が健康に与える影響を明らかにした。

今回の予測によると、発電所、工場、交通機関からのNOx排出量を計画的に削減すれば、東南アジアにおけるオゾン関連の早期死亡者数は2050年までに年間2万2000人減少させることができる。

排出規制が厳格な楽観的シナリオでは、2050年までにオゾン関連の早期死亡者数は年間3万6000人減少させることができる。これらの研究結果は、大気汚染の緩和には強力かつ緊急の取り組みが必要であることを浮き彫りにしている。研究チームは、産業、交通、バイオマス燃焼に対する規制を厳しくすれば、オゾンの形成を抑制できる可能性があると語る。

本研究論文の筆頭著者であるシンガポール南洋理工大学 (NTU) のスティーブ・イム (Steve Yim) 准教授は「オゾンの削減は容易ではありません。大気から直接除去するのではなく、その前駆物質である窒素酸化物や揮発性有機化合物を慎重に調節する必要があるからです。東南アジアの熱帯気候もまた、オゾン層の形成を世界の他の地域とは異なるものにしています」と述べる。

本研究論文の共著者でもあるNTU のジョセフ・ソン(Joseph Sung) 卓越教授は「オゾンは目に見えないものの、有害な汚染物質です。私たちの研究は、今、断固たる対策を講じることで、地域の健康負担を大幅に軽減し、大気質を改善できることを示しています。この研究は、大気質管理が公衆衛生の保護において果たす重要な役割を改めて強調するものです」と述べる。「オゾン曝露と呼吸器疾患の関連性は十分に確立されており、私たちの研究結果は、東南アジアに住む何百万人もの人々の健康を守る政策決定に役立つ確実な証拠を提供しています」

研究チームは、このモデルを用いて、様々な地域におけるオゾン生成を最も効率的に削減する方法も見出した。

シンガポール、ジャカルタ、クアラルンプールなどの大都市圏では、NOxとVOCsの両方がオゾン生成に寄与している。つまり、都市部のオゾン濃度を低減するには、両方の汚染物質を管理する必要がある。一方、農村部や沿岸地域では、オゾン生成により大きく寄与しているのはNOxであるため、この物質を重点的に削減することが効果的である。

研究チームは今後、気候変動と土地利用型がオゾン汚染に与える影響について調べる予定である。チームは政策立案者や環境団体と協力し、持続可能な大気質管理戦略の実施に役立てたいと考えている。

「この分野では、今まで東南アジアにおけるオゾンの挙動はあまり注目されていませんでした。けれど私たちの研究は、オゾンの挙動を具体的に調べるので、決定的な知識のギャップを埋めることができると考えています」とイム准教授は語る。

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