Fragle検査法は血液中のDNA断片の大きさを分析し、がんDNAと健康なDNAを区別する明確なパターンを検出する。(2025年8月4日公開)
シンガポールの科学者たちは、人工知能 (AI) を利用する「Fragle」検査法という新たな手法を開発した。この手法は血液検査によりがんを容易かつ迅速に追跡する。
この手法で必要とするのは少量の血液サンプルのみである。血液中のDNA断片の大きさを分析し、がんDNAと健康なDNAを区別する明確なパターンが示され、医師はがん治療に対する反応を高い精度で頻繁に追跡できるようになる。
本研究はシンガポールA*STARゲノム研究所 (A*STAR GIS) の科学者たちにより実施され、Nature Biomedical Engineering誌に発表された。
A*STAR GIS計算がんゲノミクス研究所の上級主席科学者であり、本研究論文の筆頭著者であるアンダース・スカンデルプ (Anders Skanderup) 氏は「科学者が水中のウイルス粒子を検出してCOVID-19の発生を追跡したように、Fragle検査法は血液中のDNA断片を分析してがん治療への反応をモニタリングし、再発を早期に発見します」と説明する。
血液中のがんDNAを測定する既存の方法は循環腫瘍DNA (ctDNA)という名称で知られている。一般的ながん変異をスクリーニングするために、複雑で高価なDNAシーケンシングが必要となる場合が多い。しかし、がん変異は患者ごとに異なるため、検査結果に一貫性がない。そのため、血液検査でがん治療への反応を効果的に追跡することは医師にとって困難なものとなっている。
スカンデルプ氏は「私たちは、もっと簡単で、手頃な価格で、利用しやすい方法を開発しようと考えました。つまり臨床ワークフローに負担をかけずに正確なモニタリングを可能にする方法です」と語る。従来の市販検査は1000シンガポールドル以上かかることもあるが、Fragle検査法は50シンガポールドルもかからないと推測される。
Fragle検査法ではAIを用いて血液中のDNA断片の大きさを分析する。がんDNAは健康なDNAと比較して断片化パターンが異なる傾向を示すが、AIを使うFragle検査法はごく少量のDNAでもこれらの違いを識別できる。そのため、この検査法を使うとがん追跡は迅速性を増し、低コストで行うことができる。また、数百人のがん患者の血液サンプルと様々ながん種において正確な結果を提供し、高い信頼性も証明されている。さらに、この検査法は汎用性が高く、病院や民間企業で一般的に使用されているほとんどのDNAプロファイリング技術と互換性を持つ。
研究者たちは、Fragle検査法を使うと手術や治療後に残る微小ながんの痕跡(MRDと呼ばれる微小残存病変)も特定できるため、医師が再発の可能性を早期に発見するのに役立つと語る。
A*STAR GISの研究チームは、シンガポール国立がんセンター (NCCS) と協力して、臨床応用の可能性と応用範囲を特定し、Fragle検査法を地域の病院で導入してがん患者の治療を改善する方法を調べている。本研究論文の共著者であり、NCCS臨床腫瘍学部門の上級コンサルタントでもあるダニエル・タン (Daniel Tan) 准教授は「私たちはFragle検査法のような手法を使い、局所肺がん患者における疾患の再発の早期発見の方法に関する研究を開始できることを大変喜ばしく思います」と述べる。
現在、100人以上の患者を対象とした臨床試験が行われている。GIS-NCCSチームはその試験での治療期間中、2ヶ月ごとにFragle検査法を用いてctDNA血中濃度をモニタリングし、定期的なスキャンで再発の兆候が現れる前に発見しようとしている。また、チームは、ctDNAの早期変化から、治療に対する反応が良い患者と悪い患者を区別する可能性も研究している。研究者たちは、この研究の目的は、治療中のがん患者の定期モニタリングにctDNA検査を組み込むことの価値を評価することだと述べている。
A*STAR GISのエグゼクティブディレクターであるワン・ユエ (Wan Yue) 氏は、「Fragle検査法を使えば、医療従事者ががんを検出するにあたり、追跡するときの精度が向上し、治療のモニタリングが効果的なものになり、その結果、よいがん治療を患者に提供できる可能性があると期待しています。患者にとってよいがん治療となることが期待されます」と語る。