【AsianScientist】 ソーシャルメディアの利用が若者の自尊心とメンタルヘルスに影響

回答者の68%が、集中力が低下すると報告し、52%がソーシャルメディアのせいで授業中であっても頻繁に気が散ることがあると認めた。(2025年9月16日公開)

南洋理工大学 (NTU) とシンガポールを拠点とする研究機関であるリサーチネットワークの研究者たちは、米国のAIプラットフォームListenLabs.aiと共同で、500人以上の若者とその親を対象に、シンガポールとオーストラリアで調査を行った。この調査から、10代の若者が報告する集中力の持続困難、精神的疲労の増加、依存症に似た行動などは、ソーシャルメディアの長時間使用と関連していることが分かった。

この報告書は、ソーシャルメディアが若者の心に与える影響を調べる新たなホワイトペーパーシリーズの第1弾である。

研究者たちは、AIを利用する革新的なインタビュープラットフォームであるListen Labsを用いて、13歳から25歳までの若者583人とその親の意見を調べた。

この調査では、年齢、ソーシャルメディアの使用、居住地に基づいて回答者を選び、半構造化インタビューが採用された。質問はモバイル画面又はデスクトップ画面にテキストで表示され、回答者は音声で回答した。

各回答者の回答はAIによりリアルタイムで調整され、注意力、幸福感、デジタルライフに関して詳細かつ個別化された会話が行われた。機械学習とテーマ別コーディングを組み合わせてインタビューの書き起こしを分析し、パターン、テーマ、人口統計学的差異を特定した。

回答者の68%が集中力の低下を報告し、52%がソーシャルメディアのせいで授業中であっても頻繁に気が散ることがあると認めた。多くの回答者は、このような注意力散漫の原因は、TikTokやInstagramリールなどのプラットフォームが短形式コンテンツであるためであると述べる。

また、この調査から、回答者の15%が通常は標準の2倍速度で動画を視聴していることも明らかになった。これにより、若者の脳は常に新しい情報と即時の満足感を期待するようになる。だが十代の若者の多くは、ソーシャルメディアに対してより繋がりを感じ、コントロールできているという感覚を持つことはなく、それどころか強迫的な循環に陥っていると訴えた。スクロールするのは楽しみのためではなくそれが癖になってしまっているためであり、集中力、睡眠、そして自尊心が犠牲になることが多い。感情の高揚と落胆が頻繁に起こり、満足感を得た直後に不安を感じる者もいた。

回答者のほぼ半数 (45%) が、ソーシャルメディア利用後に複雑な、あるいは否定的な感情反応を報告した。多くの回答者は、特に長時間スクロールした後に、罪悪感、空虚感、不安感があると述べた。

その他、美や成功、幸福を演出した画像に触れることで引き起こされる「比較不安」に気づき、それによって自分が不十分だと感じるようになったと述べる者もいた。研究者たちによると、この感情の起伏はアルゴリズムが選んだコンテンツに伴う絶え間ない精神的不安定性を反映しており、ある回答者はこれを「感情のむち打ち」と表現した。

過去の研究によれば、ソーシャルメディア・プラットフォームは仲間との比較や理想化された自己表現を増幅させることが多く、これは自己形成と社会的感受性に重要な時期である思春期において、特に大きな影響を与えることが分かっている。

十代の若者の多くは、現在のデジタル利用行動は、将来の進学先や職場での成功を邪魔するのではないかという懸念も示した。65%はソーシャルメディアの利用が学習に悪影響を与えていると考えており、多くの者はスマホをチェックせず宿題を終わらせたり、授業中に集中力を保つのは難しいと認めている。

この結果は、倍速視聴などのコンテンツの加速消費は処理深度、理解力、記憶保持力を低下させるという最近の認知研究と一致している。

研究者たちは、学生たちは情報の表層のみを取得するのに慣らされ、深く知ることがなくなっているという危惧を抱いている。これは知識集約型経済の中でも、将来の職務遂行能力にとって憂慮すべき傾向である。

一部の親も同様の懸念を語っている。自分の子供は家庭内コミュニケーションの中で「精神的に不在」であると表現し、現在の教育評価では長期的な注意力の低下に対応できていないと述べている。

単にコンテンツを消費するのではなく、積極的に制作することの利点を指摘した回答者もわずかではあるが存在した (8~10%)。これらの回答者は、自信を得ること、編集・脚本・ゲームレビューなどの新しいスキルの習得、役に立つオンラインコミュニティの発見、ソーシャルメディアの利用を通じての自己認識と目的意識の向上などを報告した。また、比較不安の程度も低かった。おそらく、消費だけでなく、制作とコミュニティに重点を置いていたことによるものと考えられる。

本調査の主任研究者であり、神経科学者でもあるNTU南洋ビジネススクールの南洋マーケティングテクノロジーセンター (NCMT) のジェマ・カルバート (Gemma Calvert) 教授は「TikTokのようなプラットフォームの影響について、現在世界中で議論が交わされていますが、私たちの研究結果は、現実世界の若者の心に及ぼす影響に関する重要な証拠となります」と述べる。

さらに、「私たちの研究で明らかになった問題は、単なる個人の問題ではなく、政策立案者、教育者、テクノロジー企業などあらゆる者が注目すべき社会問題です」と述べた。

リサーチネットワークのCEOであり、本報告書の共著者でもあるジェームズ・ブリーズ(James Breeze) 氏は「アテンション・エコノミーを構築したプラットフォームやデバイス製造会社は、ユーザーの幸福を最優先に、責任をもってアテンション・エコノミーを設計しなおす時がきています。スクリーンタイム制限など、簡単に回避されてしまう表面的な機能にとどまらず、注目を収益化させる設計をやめなければなりません。特にスクロールしながら育ってきた世代のために、アテンション・エコノミーを直し、設計すべき時が来ています」と述べる。

「ソーシャルプラットフォームには、スクロール中断機能、利用時間通知、社会的比較を促す機能、注意力を考慮したインターフェース設計などの安全装置をデフォルトで組み込む必要があります。そうすれば若いユーザーは立ち止まり、熟考し、より意図的な選択を行えるようになります。これらは制約ではなく、注意力を本来あるべき持ち主へ戻す手段なのです」と、ブリーズ氏はつけ加えた。

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