アジレント・テクノロジー社(以下、アジレント)は長年、シンガポールで存在感を放ち、イノベーション、パートナーシップ、そして世界規模で科学を実用化し、現実世界への影響を実現しようという戦略的コミットメントを示している。(2025年9月22日公開)
アジレントは、変革に慣れている。20年以上にわたり科学機器業界を主導してきた同社は、シンガポールにおける事業基盤を拡大し、地域の企業から世界的に認知されたイノベーション企業へと成長を遂げた。世界経済フォーラムが先進的製造分野のライトハウス(灯台)として選定した工場は国内でわずか5工場だが、同社の工場はそのうちの一つに選ばれたのである。
現在、アジレントはIgnite(点火)という名の新たに開始した全社的な変革プログラムに基づき、顧客重視の姿勢をさらに改良し、コラボレーション、デジタル化、俊敏性を強化している。アジレントの社長でありCEOでもあるポーリック・マクドーネル (Padraig McDonnell) 氏は、同社の進化する優先事項、シンガポールの戦略的役割、そしてパートナーシップの相乗効果について語ってくれた。
シンガポールは、当社の成長において大きな意味がありました。当社は優れた科学を最高レベルで現実のものとするためにここで活動しています。それは、顧客への深い注力と、ライフサイエンス市場、診断市場、応用市場における成果の実現を通じて具現化されます。東南アジアもアジア全体も、急成長を遂げ、多様性に富んだ地域です。
当社にとって、シンガポールは、アジアにおける素晴らしい拠点です。ここで、600名を超える熟練した科学者、エンジニア、その他の従業員と、17万2000平方フィートの施設を擁しています。当社は年月をかけて自動化ソリューションから質量分析ソリューションへと事業を拡大してきました。2017年には、製造研究活動に8500万シンガポールドルを投資し、シンガポールのイノベーション・エコシステムの中で信頼を獲得しました。
シンガポールの魅力は、地理的優位性、世界トップレベルのインフラ、イノベーション促進政策、そして強力な知的財産保護といった要素が組み合わさっていることです。そして何といっても、シンガポールには人材と可能性があります。当社はシンガポールが科学分野とリーダーシップの両面で人材育成に重点を置いていることを評価しています。
これは、効果的に規模を拡大し、顧客へのサービス向上を目的として設計された、全社的な変革です。この戦略は、製品だけでなく市場と顧客に焦点を当てています。これは、顧客にとって最も重要なことに当社のサービスを合わせようという変革です。
当社は、年間5~7%のコア収益成長と、1株当たり利益 (EPS) の2桁成長という長期計画を掲げています。Igniteは、当社の事業運営方法に関するプログラムでもあるのです。グローバルプロセスの簡素化、複雑性の単純化、そして機敏性の高いバリューチェーンの構築を目指しています。
顧客の立場からすると、これはリードタイムの短縮、一貫性と品質の向上、そして顧客のニーズへの迅速な対応を意味します。また、製品発売と共同イノベーションの迅速化も意味します。例えば、PFAS分析やバイオ医薬品ワークフローなどの分野では、分析機器が研究者の手に届くまでの時間を短縮しつつあります。
パートナーシップは、学術的厳密性、臨床的洞察力、技術的専門知識を互いに補完し合う強みをまとめることができます。これは、速度と精度が患者の転帰に直接影響を与える臨床検査分野において、非常に大きな力となります。
NUS医学部及びNUHとの提携を例に挙げましょう。当社は生化学分野での革新と技術を利用して臨床診断と検査を強化するために、2019年に3800万シンガポールドルをかけてトランスレーショナル研究開発ハブを設立しました。この提携により、95件以上の科学論文が発表され、50件以上の国内外のパートナーシップが締結されました。最近では、NCCSとパートナーシップを結び、当社の完全自動化NGSライブラリ調製システムを用いて、アジア系に多いがんのゲノム解析のスピードを向上させています。
また、NUS医学部と協力し、新たに設立された細胞代謝中核的研究拠点を通じて、心血管疾患や代謝性疾患の研究を支援しています。これらはすべて構造化された成果志向のコラボレーションであり、科学を研究室から臨床現場に届けることを目的としています。
私は次のように考えます。「世界はアジレントの研究室である。素晴らしいアイデアが当社だけから生まれることはない。重要な研究分野において、政府、産業界、学界の間で適切なパートナーシップを構築することで、科学の進歩を促進させ、生活の質を向上させることができる」
当社のパートナーシップは、イノベーションと適用のギャップを埋めるものです。一流の臨床医や研究者と協力すれば、現実の研究室のワークフローに合わせた技術を設計することができます。すると、当社のソリューションは適切かつ導入しやすいものになるのです。
また、フィードバックループも高速化されます。パートナーと協力してソリューションを試験し、検証し、改良を行えば、市場投入までの時間は短縮され、顧客は科学の進歩の恩恵を以前よりも早く受けられるようになります。
他に、地域への対応力という重要な面があります。当社のパートナーシップはアジアの市場ニーズへの理解を深め、製品設計からサービス、教育に至るあらゆる面でよりきめ細やかな支援を提供するのに役立ちます。
これからは、世界が直面する最も困難な課題のいくつかについて、顧客とのつながりがさらに加速していくこととなるでしょう。
当社は、シンガポールその他の地域にあるグローバルソリューション開発センターを通じて、研究所の潜在能力を最大限引き出すことのできる包括的なデジタルラボ・エコシステムを構築しました。
当社は、データ、機器、ラボ環境、及び事業の広範化という4つの主要な最適化領域に注力しています。AIが生み出す知見と接続技術を統合することで、研究から製造までのすべてにおいて、複雑なワークフローを簡素化し、プロセスを自動化し、データ精度を向上させます。
科学者は、高度な予測分析、シームレスな機器接続、そして労働集約的なワークフローと変動性を減少させるソリューションの改善を期待できます。当社は第4次産業革命 (4IR) 技術を活用し、当社の機器の作動や製造方法について、効率性と持続可能性を推進します。世界経済フォーラムは当社の4工場を画期的な4IR拡大の成果を示すスマートファクトリーとして認めました。これは、当社のコミットメントを証明するものです。
今日の熾烈な競争環境の中、デジタル化はもはや「あれば良い」というものではないことがはっきりしています。デジタル化はラボの業績向上の基盤であり、当社は誇りをもって、顧客がその移行を進めるお手伝いをしているのです。
当社は、顧客中心主義をさらに推し進めようとしています。それが当社のあらゆる活動の中心となっています。当社は、組織の成長とM&Aの両方を通じてイノベーションへの投資を継続し、成長著しい分野への事業拡大を進めています。
また、世界中のラボを支援するために、自動化の推進とソフトウェア機能の強化にも取り組んでいます。目標は、治療薬開発の加速からマイクロプラスチックの効果的な検出まで、複雑な問題であっても顧客が容易に解決できるようにすることです。最終的には、私たちの技術を日々利用する人々に深くつながらせつつ、科学の進歩を加速させることのできる、永続的な企業を築き上げていきたいと思います。