フィリピンにおける約20年間の雹発生を地図化する研究が行われた。その結果、雹嵐は稀ではあるものの、これまで考えられていたよりも広範囲で発生していることが分かった。(2025年11月20日)

2020年5月8日、フィリピン中部ルソン地方最大の州であり、最大の米生産地でもあるヌエバ・エシハ州カビオに、ゴルフボールよりも大きな雹が降り注いだ。大きさは直径4センチメートルを超え、フィリピンで記録された最大の雹であった。
フィリピンは熱帯気候の国であり、地形は変化に富み、風向は変化するため、雷雨は国中で頻繁に発生する。6月から8月の南西モンスーン期には、湿った不安定な空気により、多くの雷雨が見られる。特に雷雨が多いのは午後である。そしてモンスーンの移行期である3月から5月、10月から11月にも雷雨は多く発生する。雷雨は頻繁に発生するが、雹は依然として稀な現象である。専門的な観測システムが存在しないため、研究もほとんど行われていない。
フィリピンの研究者チームは、この未解明の領域を明らかにして雹についての知識を得るために、2006年から2024年までの約20年間のデータを対象に、国内における雹発生に関する初の包括的な分析を実施した。
その研究論文はAsia-Pacific Journal of Atmospheric Sciences誌に発表された。
この研究において、チームは機器データだけでなく、地方自治体の記録、報道機関、位置情報付きSNS投稿など、多様な情報源を活用した。フィリピン国内の地上設置型雹検知システムは限られているため、このアプローチは特に有効であった。
この研究から、雹嵐は3月、4月、5月の乾期に最も多く発生することがわかった。この時期は地表温度が最高値に達し、雷雨が発生しやすい時期である。さらに、ほとんどの雹嵐は1日の中で最も気温が高い時間帯である午後半ばから遅くにかけて発生している。
高温と雹が関連性を持つのは、対流有効位置エネルギー (Convective Available Potential Energy: CAPE) が関係している。これは、上昇気流が持つエネルギーに関する指標である。 CAPEが高い場合、暖かい空気が急速に上昇し、高くそびえる積乱雲に水分を運ぶ。積乱雲の内部では、水滴は強力な上昇気流によって大気の中でも冷たい層へと持ち上げられ、そこで凍結して雹へと成長する。
中層大気の乾燥した空気も雹が地面に到達するのを助ける。この空気は蒸発冷却を促進し、下降気流を強化して雹の下降速度を速める。落下速度が速いため、雹は暖かい空気中での滞在時間が短くなり、着地前に融解する可能性が低くなる。
雹の発生の報告が一番多かったのはルソン島であったが、3センチメートル以上の大きな雹が多く観測されたのはビサヤ諸島とミンダナオ諸島であった。
チームは、これらの地域ではモンスーンの影響が弱いため、局地的な嵐が年の後半まで続くことがあると述べる。この研究は、雹嵐その他の深刻な気象の脅威を監視する上で、市民科学と市民による報告の重要性についても訴えている。
気候変動によって極端気象の可能性が高まる中、フィリピンの早期警報システムを強化するには、市民をデータ収集に参加させることが不可欠となるかもしれない。チームはまた、フィリピンの気象監視予報ネットワークを強化する必要性も訴えている。
本研究論文の筆頭著者でもあるアテネオ・デ・マニラ大学物理学科のリンドン・マーク・P・オラゲラ (Lyndon Mark P. Olaguera) 助教授は「フィリピンでは雹は比較的珍しいので、雹が降ると多くの人が驚きます」と語る。
「多くの人が写真や動画を撮ってオンラインで共有します。普通ではないので怖がる人もいれば、ただ奇妙な雨として捉える人もいます。雹を激しい雷雨の一部と説明する人が多いのですが、雹を気候変動の警告や兆候と解釈する人もいます」と同助教授は付け加えた。
チームは、災害対策プログラムの中に、台風や洪水だけでなく、竜巻、水竜巻、雹嵐など、地域社会を驚かせるが、あまり知られていない脅威も含めるよう奨励している。