【AsianScientist】日本脳炎の免疫力がデング熱の重症化リスクを低下させる

ネパールで行われた研究から、ワクチン接種によって日本脳炎ウイルスに対する強力な免疫力を維持することで、デング熱の重症化リスクも低下させることが分かった。(2025年12月9日公開)

蚊の生息地が拡大するにつれ、蚊が媒介する病気も一緒に移動していく。気候が変化すると、デング熱などの蚊媒介性疾患が、以前は影響のなかった地域にまで広がっていく。

そのような地域の一つが最近デング熱感染が急増しているネパールである。ネパールは、別の蚊媒介性疾患である日本脳炎ウイルス (JEV) に対する強力なワクチン対策を講じている。しかし、デング熱の予防は依然として、主に蚊の駆除と個人の防護策に依存している。

デューク・シンガポール国立大学(Duke-NUS)医学部上級研究副学部長のパトリック・タン (Patrick Tan) 教授は「日本脳炎は壊滅的な病気であり、デング熱よりもはるかに大きな健康被害をもたらします。デング熱は、通常の致死率は低くはありますが、やはり危険です。けれど、日本脳炎とデング熱には違いはあります。デング熱にはまだ広く普及しているワクチンがないのに対し、日本脳炎はワクチン接種によってほぼ完全に予防できるのです」と述べる。

最近の研究により、時間の経過により日本脳炎ウイルスに対する免疫力が低下している人は、デング熱に感染すると重症化しやすいことが分かった。Duke-NUS医学部とネパールの研究者が共同で行ったこの研究は、Science Translational Medicines誌に発表された。

Duke-NUS医学部のリサーチフェローであり筆頭著者であるシッダールト・マルホートラ (Sidharth Malhotra) 氏は「ネパールを研究場所に選んだのは、ネパールが、フラビウイルスの一種である日本脳炎に対する免疫が既に広く確立されていながらも、デング熱が急速に蔓延している数少ない国の一つだからです。この研究は、過去の免疫がデング熱の発症に与える影響を観察するまたとない機会となりました。日本脳炎に対する免疫力が低下している人は、デング熱が重症化する可能性が高いことがわかりました」と語る。

研究チームは500人以上の患者を検査し、炎症及びデング熱の重症度の指標として血中のキマーゼ濃度を測定した。キマーゼ濃度が最も高かったのはJEV抗体濃度が中程度の患者であり、出血や胃痛など危険な身体症状に苦しむ割合も高かった。

この現象の原因は、抗体依存性増強であると考えられる。これは、以前の感染やワクチン接種で得た抗体が、新たなウイルス感染に対抗するには弱すぎるにもかかわらず、ウイルスへの結合を続けるメカニズムである。このメカニズムはウイルスを中和する代わりにウイルスが免疫細胞に侵入して急速に増殖するのを助け、より強い免疫反応を引き起こし、重篤度の高い症状を引き起こすことがある。

この現象は、デング熱に複数回感染した患者によく起こることが十分に立証されている。しかし、今回の発見は、JEVなど関連ウイルスに対する免疫が弱くなっている場合でも起こり得ることを示している。

Duke-NUS医学部新興感染症プログラムのアシュリー・セント・ジョン (Ashley St. John) 准教授は「この発見は、ネパールやアジア全域など、日本脳炎とデング熱のウイルスが蔓延している国々にとって重要です。また、日本脳炎自体を予防するだけでなく、重度のデング熱のリスクを低減するためにも、適切な時期で追加接種を行いJEVに対する防御を強力に維持する必要性も強く訴えます」と話してくれた。

研究者チームは、地域におけるデング熱の進化を継続的に監視し、パートナーと協力して、JEV、デング熱、その他の関連ウイルスに対する効果的なワクチン戦略を開発する予定である。

セント・ジョン准教授は、「JEVワクチンの接種率を高く維持し、できれば必要に応じて追加接種を導入することは、JEVを予防するだけでなく、デング熱の重症度を軽減し、両方のウイルスが存在するアジアの人々を守る、現実的な方法となるでしょう」と述べた。

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