ジャノメチョウ科の蝶はユニークなDNA要素を持ち、環境条件の変化に応じて羽の模様を変えることができる。(2026年2月6日公開)

シンガポールの科学者たちは、熱帯の蝶が季節に合わせて羽の模様を変えることができる単純な遺伝機構を発見した。温度に反応するこの小さなDNA「スイッチ」を発見したことで、環境の変化を感知し適応する昆虫の能力の進化について新たなことが分かった。
昆虫が環境に適応する方法には驚かされることが多い。例えば、一部の蝶は季節に合わせて体色を変える。この季節に合わせた順応性は可塑性と呼ばれ、予測不可能な環境で生き残るためには不可欠である。しかし、このような順応性の遺伝基盤はほとんど解明されていなかった。
シンガポール国立大学 (NUS) 生物科学部のアントニア・モンテイロ (Antónia Monteiro) 教授が率いる研究チームは、特定の蝶が雨季と乾季で羽の模様を切り替えるのに使われるDNA配列を特定した。
モンテイロ教授は「熱帯の蝶の多くは、乾季に羽化するか雨季に羽化するかで見た目が大きく異なってきます。その一例が、私たちが研究しているビキュルス・アニャナ(Bicyclus anynana) という種類のアフリカの蝶です」と語る。
この種類の蝶の羽の眼状紋は雨季には大きくなり、乾季には小さくなる。こうした季節による変化は、蝶の生存に役立っている。
以前の研究では、幼虫が成長するときの温度が眼状紋の大きさを決定すると実証された。茶色の羽に眼状紋という特徴を持つジャノメチョウ科の蝶は、温度に大きな反応を示すという点で独特である。
この変化の背後にある遺伝機構を解明しようと、チームはアンテナペディア (Antp) と呼ばれるマスター発生遺伝子に注目した。この遺伝子は、ジャノメチョウ科の蝶の眼状紋の形成を制御する。
チームは、この遺伝子は蝶の飼育時の気温により活性が変化することを発見した。2種類のジャノメチョウを使いこの遺伝子を破壊したところ、暖かい気温で飼育されたチョウの眼状紋縮小が目立った。これは、季節により眼状紋の大きさが変化するのは、主にAntpによるものだということを裏付けている。
チームがこれまで知られていなかったプロモーターというDNAスイッチを発見したとき、大きな進展があった。このスイッチは、ジャノメチョウにのみ存在する。プロモーターは、眼状紋の中心細胞にあるAntp遺伝子を特異的に活性化させ、眼状紋の大きさを決定する。
このプロモーターを無効にすると、蝶は温度に応じて眼状紋の大きさを調整する能力を大きく失った。これは、このDNAスイッチの進化が、ジャノメチョウに驚くべき季節的順応性を与える上で重要な役割を果たしたことを示す。
この研究結果はNature Ecology & Evolution誌に発表された。チームは、この研究は動物が環境変化に対する回復力を進化させる仕組みを理解する上で役立つと述べている。
本論文の筆頭著者であるティアン・シェン (Tian Shen) 博士は「単純な遺伝子スイッチが、多くの種類の昆虫が持つ複雑な環境感受性の基盤となっていることを知り、驚きました。これらの発見は、このようなスイッチが適応形成において果たす役割についての今後の研究、そして気候変動の中でも保全に役立つ知識への扉を開いてくれます」と述べた。博士はシンガポール国立大学 (NUS) の大学院生時代とポスドク時代に、本研究に参加した。