ゾウがコミュニケーションを取ろうと判断する際には、体と顔の向きの両方が重要になる。(2026年2月19日公開)

ゾウの眼は霊長類とは異なり、表情があるわけではなく前方を向いてもいない。チンパンジーや人間は社会生活を送る上で顔の表情に大きく依存している。ゾウが人間の意識を実際に感じているのか、あるいは人間の頭や体の向きからゾウ独自の方法で意図を読み取っているのかは不明である。
アフリカゾウ (Loxodonta Africana) が人間のボディランゲージを読み取ることは研究から分かっているが、アジアゾウ (Elephas maximus) にもこの能力があるかどうかはまだ分かっていない。この2種は遠い親戚であり、約700万年前に異なる進化の道を歩んできた。それ以来、アフリカゾウとアジアゾウは行動と認知の点で、いくつかの違いを発達させてきた。
Scientific Reports誌に発表された研究の筆頭著者であるホイラム・ジム (Hoi-Lam Jim) 氏は「ゾウが自身の評判を形成する方法について博士論文を執筆した後、人間がアジアゾウに意識を向けているとき、アジアゾウはそのことを理解しているかどうかを検証したいと思いました」と語る。
ジム氏は研究チームを率いて、タイのチェンライにあるゴールデン・トライアングル・アジアゾウ財団で飼育されている雌のアジアゾウ10頭を調査した。すべてのゾウは人間の飼育者に慣れていた。餌を要求する一連の訓練の中で、研究チームはゾウが異なる視覚条件下でどのようにコミュニケーションをとるかを観察した。
実験担当者は、1. 体と顔の両方をゾウに向ける、2. 体と顔の両方をゾウからそむける、3. 体だけをゾウに向ける、4. 顔だけをゾウに向ける、という4つの姿勢のいずれかで立ってみた。その時、研究チームは、ゾウが実験担当者に向かって鼻を伸ばしたり頭を上下に振ったりするなどの餌を要求するジェスチャーをどの程度行うか記録した。
ゾウの反応は選択的なものだった。体も顔もすべてゾウに向けると、最も頻繁にジェスチャーを示した。体の向きは顔の向きよりも強い手がかりとなるようであったが、それは実験担当者がゾウを見ている場合に限られていた。体の向きだけ、あるいは顔の向きだけでは、コミュニケーションの強い引き金とするには十分ではなかった。
このパターンは、アジアゾウが単一の視覚信号に頼っているわけではないことを意味する。どちらかというと、アジアゾウは複数の手がかりを統合して、人間が意識を向けているかどうか、そしてコミュニケーションが効果的かどうかを判断している。
興味深いことに、人間が背を向けて立っていると、人間がまったくいない場合と同様、ゾウはほとんどジェスチャーを示さなかった。
「ゾウは人間がいるからといってジェスチャーをするわけではないことに驚きました」とジム氏は語った。
ゾウは人間の意識の向け方を判断していると考えられた。視覚的な手がかりからコミュニケーションできると判断した場合にのみ、ジェスチャーが増加した。この行動は、アジアゾウが人間に反応するだけでなく、人間が自分たちにどのように向き合っているかを積極的に解釈していることを示す。
この研究は、ゾウの知能に新たな光を当てている。ゾウは主に聴覚と嗅覚に依存しているが、視覚も社会的やりとりの中で重要な役割を果たしている。
研究チームは、協力、向社会行動、自制心などといったアジアゾウの他の認知能力を調べることで、この研究をさらに発展させたいと考えている。ゾウは大まかな特徴ばかりが語られがちな動物だが、誰が見ていて、誰が見ていないかという瞬間は、ゾウが周囲の世界をどのように読み取っているのかを明らかにする鍵となるかもしれない。