【AsianScientist】 脳の排水路の詰まりはアルツハイマー病の初期兆候かもしれない

脳内の「排水路」は有害な老廃物を除去するが、これが詰まることがある。この現象は、アルツハイマー病の初期症状を示す人々によく見られる。(2026年2月25日公開)

脳内の排出路の詰まりは、アルツハイマー病の兆候の可能性がある。血管を取り囲むこれらの「排水路」は、脳脊髄液で満たされており、神経系の老廃物を排出させる。動脈硬化や高血圧などの疾患はこの経路を阻害し、老廃物の蓄積を引き起こす。すると、血管周囲腔と呼ばれる「排水路」が拡大する。

シンガポールの南洋理工大学 (NTU) の研究者チームは、拡大血管周囲腔 (EPVS) の存在はアルツハイマー病の初期徴候を示す患者において見られる傾向があることを発見した。

この研究を率いたNTUリーコンチアン医学部 (LKCMedicine) のナガエンドラン・カンディア (Nagaendran Kandiah) 准教授は「これらの脳の異常は、認知機能の低下を評価するために行われる通常の磁気共鳴画像 (MRI)スキャンで視覚的に特定できます。それらを特定すれば、追加の検査を行い費用を負担することなく、アルツハイマー病早期発見における既存の方法を補完できると考えられます」と述べる。

本研究の筆頭著者であり、リーコンチアン医学部の5年生であるジャスティン・オン (Justin Ong) 氏によると、アルツハイマー病の早期発見は重要である。早期発見すれば医師は早く介入することができ、記憶喪失、思考力の低下、気分変動といった認知機能障害の進行を遅らせることができる。

これまでEPVSとアルツハイマー病の関連性は不明であったため、NTUのチームはEPVSを十分に確立されたアルツハイマー病の指標と比較しようとした。

本研究は、複数の民族グループのシンガポール人の参加者を募集することで、研究における大きな空白を埋めることもできた。アルツハイマー病に関する研究の多くは西洋人集団に焦点を当てているが、その研究結果は必ずしも他の民族に当てはまるとは限らない。 「例えば、過去の研究では、白人の認知症患者の場合、アルツハイマー病と関連する主要なリスク遺伝子であるアポリポタンパク質E4の有病率は約50~60%でした。しかし、シンガポール人の認知症患者では、この割合は20%未満です」とカンディア氏は語る。

チームは979人のシンガポール人を対象に、軽度認知障害のある参加者とない参加者を比較した。

MRIスキャンを行ったところ、軽度認知障害のある参加者は、障害のない参加者よりもEPVSが多く観察された。

チームはアルツハイマー病に関連する7つのバイオマーカーの測定も行った。EPVSを持つ参加者は、アミロイド斑やタウ凝集体など、7つのバイオマーカーのうち4つを示しており、アルツハイマー病のリスクが高いことが示された。

チームは、アルツハイマー病のよく知られた指標である白質損傷についても調査した。白質損傷は、7つのバイオマーカーのうち6つと関連していた。しかし、軽度認知障害のある参加者では、アルツハイマー病のバイオマーカーは白質損傷よりもEPVSとより強く関連していた。これは、EPVSがアルツハイマー病の早期指標となる可能性を意味する。

カンディア氏は「この発見は臨床的に大きな意味を持ちます」と語る。「白質損傷はMRIスキャンで容易に見つけることができるため、臨床現場では認知症の評価に広く用いられていますが、今回の研究結果から、拡大血管周囲腔はアルツハイマー病の初期兆候であり、他に類のない診断方法であるかもしれないことが分かりました」

EPVSとアルツハイマー病の関連性は、MRIが将来、早期診断用ツールとして実用化される可能性を示唆している。すると医師はアルツハイマー病の進行を未然に防ぎ、発症を遅らせることができるようになるかもしれない。

チームは研究参加者の追跡調査を続け、最終的にアルツハイマー病を発症する人数を特定するとともに、さらにはEPVSが認知症発症の可能性を予測できるかどうかを確認する計画である。

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