【AsianScientist】 プラスチックを食べる細菌がさらに強力に進化

シンガポール国立大学(NUS)の研究者らは、産業用微生物の工学化における大きな障害である「速度」と「信頼性」を、細菌を殺すウイルスを利用して克服した。(2026年7月9日公開)

細菌は、医薬品を製造したり、プラスチック廃棄物を分解したり、炭素を固定したりするよう作り替えることができる。そのためには、有用な性質が現れるまで、微生物を遺伝子の試行錯誤のサイクルに繰り返しさらす必要がある。これは骨の折れる過程であり、1つの遺伝子ずつではなく、相互に作用する遺伝子群全体を調整しなければならない場合、その難しさは格段に増す。

標準的なアプローチは「指向性進化」であり、実験室内で自然選択を加速させることで、数千年かかる進化を数日に圧縮するものだ。しかし、最も高速な手法であっても、変異させられるのは約8000塩基対という短いDNA領域に限られ、産業応用に必要な大規模な多遺伝子経路を最適化する能力には限界がある。

信頼性にも課題がある。選択圧の下で、細菌は標的遺伝子を改善することなく、生存に役立つ無関係な突然変異をゲノムの別の場所に獲得することがある。こうしたいわゆる「チーター変異」は、どの遺伝的変化が実際に性能向上に寄与しているのかを分かりにくくしてしまう。

シンガポール国立大学(NUS)の研究者らが開発した新しいウイルスベースのプラットフォームは、この2つの制約の両方に対処する。「Lytic Selection and Evolution(LySE)」と呼ばれるこのプラットフォームは、NUS生化学科のジュリアス・フレデンス(Julius Fredens)助教授が率いるチームにより、学術誌『Nature Microbiology』で報告された。

LySEは、細菌に感染し、最終的に細菌細胞を破裂(溶菌)させるウイルスであるT7バクテリオファージを利用して、標的遺伝子クラスターに変異を導入し、変異した遺伝子を新たな細菌宿主へ運び込む。この「形質導入」と呼ばれる移送ステップこそが、「チーター変異」を排除する鍵となる。各サイクルの終了時に細菌宿主が完全に置き換わるため、実験中に細菌が蓄積した標的外の変異はすべて取り除かれる。

このシステムの制御性は、T7のDNA複製酵素を改変したバージョンに由来する。この酵素は、意図的にエラーを起こしやすいよう再設計されている。細菌が通常持つDNA複製機構と比べ、この改変酵素は約16万倍の速さで突然変異を導入するが、その変異は主にウイルスが運ぶ選択対象の遺伝子に限られる。

この高いエラー率は、ウイルス自体を弱体化させ、制御不能な拡散を防ぐ役割も果たす。研究者らは、ウイルス粒子と細菌細胞の比率を調整することで、突然変異サイクルの開始と終了を制御できる。これにより、従来の連続進化システムよりも厳密な制御が可能になる。

「従来、科学者は、速度は遅いものの高度に制御された進化手法と、超高速だが制御不能な連続進化手法のどちらかを選ばざるを得ませんでした」と、同助教授は述べた。「私たちの目標は、両方の長所を兼ね備えたシステムを作ることでした。つまり、大規模な生物学的経路を迅速に進化させながら、プロセスを制御し、望ましくない遺伝的エラーを防ぐために『一時停止ボタン』を押すこともできるツールです」

LySEの実証として、研究チームは9715塩基対に及ぶ5つの遺伝子からなる代謝経路を進化させ、大腸菌がPETプラスチックの構成要素であるエチレングリコールを唯一の炭素源として利用できるようにした。5回の進化サイクルを経て、最も性能の高い細菌は、初期株に比べてエチレングリコールを栄養源とした増殖率が50.9%向上した。

標準的な実験室適応進化を用いた並行実験では、細菌の増殖は向上したものの、標的経路自体には変異が一切認められなかった。その代わり、細菌はゲノムの別の場所に無関係な変化を獲得しており、これはLySEが回避するよう設計された「チーター問題」をよく示している。

LySEは、既存のファージベースの進化システムに比べて最大5倍大きい遺伝子クラスターを扱える。研究者らは、CO2を捕捉するためのAI設計酵素など、自然界にはまだ存在しない合成生物学システムへの応用を計画している。今後の研究では、進化させた経路が長期の工業プロセスでどの程度安定するのか、またこのプラットフォームが大腸菌以外の微生物でも効率よく機能するのかを明らかにする必要がある。

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