レムデシビル、リトナビル、ロピナビルの併用がCOVID-19の治療に有効であることをシンガポールなどの国際研究グループが人工知能プラットフォームIDentif.AI(アイデンティファイ)を利用して発見。
AsianScientist -シンガポールの研究者たちは、人工知能(AI)を使用することで抗ウイルス薬のレムデシビル、リトナビル、ロピナビルの併用がCOVID-19に最も有効であることを発見した。この研究結果は、Bioengineering and Translational Medicine誌上で発表された。
新薬が研究開発から市場に出るまでには、平均して約10年かかる。しかし、コロナウイルスが急速に世界中に広がったため、第一線で働く医療従事者や研究者には、対応のための充分な時間が与えられなかった。そこで、新薬を開発する代わりに、他の病気の治療を目的として既に開発された薬の再開発、つまり、ドラッグリパーパシング(Drug Repurposing)と呼ばれる手法に研究者が注目し始めたが、再開発に関与する薬は、単独では十分な効果を期待できない。
COVID-19に対抗する有効な薬剤の併用方法を効率的に探索するため、シンガポール国立大学(NUS)、中国の上海交通大学、米国のオンライン学習プラットフォームOsmosis (Knowledge Diffusion)のチームが人工知能(AI)に注目した。具体的には、「IDentif.AI」と呼ばれるプラットフォームの使用や、人工知能を用いた感染症の併用療法の最適化を行った。
同研究チームは、サルの腎細胞でSARS-CoV-2ウイルスを抑制する効果がある12種類の候補薬について検討した。一連の候補薬には、レムデシビル、抗マラリア薬のヒドロキシクロロキン、抗生物質のアジスロマイシンのような既知の抗ウイルス薬などがある。これを従来の薬剤スクリーニング法では、12の類似薬についてそれぞれ10種類もの投与量で試験を行い、効果の可能性がある1兆通りの組み合わせが導き出された。
これに対して、IDentif.AIを使用したところ、それぞれの薬に関して必要な投与量は3種類だけであることが明らかとなり、試験対象となる組み合わせは53万通り強まで絞られた。試験回数が大幅に減ったこともあり、研究者たちが実施した試験は2週間以内に完了した。
その結果、エボラ治療薬のレムデシビルは単体で最も優れた効果を示したが、HIV抗ウイルス薬であるリトナビルとロピナビルではSARS-CoV-2に対する効果がみられなかった。しかし、これらの3つの薬剤を組み合わせることで、ほぼ完全な感染抑制効果が得られ、レムデシビルの単独使用と比較して6.5倍の抑制効率が示された。研究チームは、上記の試験とは対照的に、ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシンではこのウイルスに対する効果がほとんどみられないことも発見した。
最適な薬の組み合わせを探索するにあたって、IDentif.AIは作業の効率化を促進することが証明された。これを受けて、研究チームは現在、シンガポールで利用可能な本プラットフォームを使った治療の実施と、同国での迅速な普及・投与が可能な新しい組み合わせを作り出すことを検討している。
本研究の共同リーダーであるNUSのディーン・ホー(Dean Ho)教授は、「IDentif.AIを使えば、次のアウトブレイクに備えていつでも最適な治療法を迅速に見つけられるだろう」とコメントしている。