2021年04月
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「分かっていても不覚にも共有」ディープフェイクに関するディープな研究

事実と創作の違いを見極めるのは思っている以上に難しいかもしれない。ディープフェイクを認識している人でも不覚にもオンラインで共有してしまっているという。シンガポール発の新たな研究成果は―。

AsianScientist --ディープフェイクの存在を知り、その危険性を認識していながらも、シンガポールではディープフェイクのコンテンツをソーシャルメディアで共有してしまう人がいることが最近の調査で判明した。この調査結果はTelematics and Informatics誌で報告された。

まるで英テレビ番組『ブラック・ミラー』のエピソードかのように、ディープフェイクが 近年、目立ってきている。ディープフェイクとは「Deep Learning(深層学習)」と「Fake(偽物)」を組み合わせた混成語だ。人工知能(AI)のソフトウェアがますます洗練され、超現実的なディープフェイクビデオは、これまでできなかったレベルの描写が可能になった。目を閉じていても見分けられるほどずさんに編集されていた過去のフェイクビデオ とは異なり、ディープフェイクは現実とほとんど区別がつかない。

COVID-19に関わる「インフォデミック」や世界各国で高まった政治的緊張によって、オンラインで特定されたディープフェイクの数はうなぎのぼりで増えている。ディープフェイクの検出を手掛ける「センシティー」(Sensity)によると、そのディープフェイクの数は半年毎に倍増し、2020年6月の時点で5万件がオンライン上で出回っている。

このように警戒すべき傾向が高まる中で、シンガポールの南洋理工大学(Nanyang Technological University)のサイフディン・アハメド(Saifuddin Ahmed)助教授は、1231人のシンガポール人を対象に自宅でのディープフェイク技術の普及に関する調査を行った。

それによると、調査回答者の54%はディープフェイクについて認識。この認識した人たちの約 3分の1は後にディープフェイクだと判明した内容をソーシャルメディアで共有していた。また、ディープフェイクを認識している5分の1のシンガポール人がオンラインでディープフェイクに日常的に遭遇すると回答した。

アハメド助教授はディープフェイクの傾向が世界的に広まっているかを調べるため、アメリカにおける調査も実施した。アメリカでは61%というより多くの回答者がディープフェイクを認識していると回答した。ディープフェイクが存在することを認識しているにもかかわらず、回答者の40%近くが、ソーシャルネットワークでそれらをうっかり共有してしまったという。

米国との違いは、シンガポールにはディープフェイクのような偽情報戦術の脅威を制限する「オンライン虚偽および情報操作防止法」(Protection from Online Falsehoods and Manipulation Act:POFMA)のような規制の存在が関係しているのではないかとアハメド助教授はみている。こうしたことから、デジタル・リテラシーに対する教育を最重要案件として協調して進めることが必要とされる。

「フェイスブック、ツイッター、グーグルのようなIT大手は、ディープフェイクのような操作されたオンラインコンテンツを特定し、分類し始めました。一方でこのようなコンテンツを効率的に排除するためには、一般市民への教育がさらに求められています」(アハメド助教授)

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