わずか1キロのエアロゲルから一世帯が日々の生活に必要な飲料水を生成する技術が考案された。
写真提供:シンガポール国立大学(NUS)
Asian Scientist--シンガポールの科学者らは、まるで魔法のように空気から水を作り出す方法を考案した。エアロゲルと呼ばれる材料を用いたこの方法の詳細が科学誌Science Advancesに掲載された。
地球の70%は水で占められているが、淡水は意外と少ない。世界の水供給量のわずか3%が淡水であり、その大部分は氷河や極地の氷冠で凍っている。現在の水の消費率では、水不足はさらに深刻化する可能性が高く、2025年までには世界人口の3分の2、つまり約40億人が水不足に直面すると予想されている。
清潔な飲料水が必要とされているため、研究者たちは長い間、新しい淡水の供給源を探してきた。その答えは、私たちが呼吸する空気中にある可能性が判明した。理論上は、地球の大気中の水によって、オリンピックプールの500億倍近くを満たすことができるという。
この新たな水源から水を抽出するため、シンガポール国立大学(NUS)のホー・ギム・ウェイ(Ho Ghim Wei)教授が率いるチームは、重量がほとんどないゲル由来の新しいタイプのエアロゲルの固体材料を作り出した。ホー教授のチームが作り出した新しいエアロゲルは、乾燥剤ベース大気中水抽出と呼ばれる方法を用いている。
一般に購入する製品に含まれているシリカゲルのパケットと同様に、この方法は液体または固体の乾燥剤を使用し、湿気の多い空気から水分を捕捉して放出する。ただし、従来の乾燥剤を使用した方法は時間がかかることが多く、一般的にコンデンサーや蒸発器を追加する必要がある。これとは対照的に、研究チームが開発した新しいエアロゲルは、乾燥剤と独特な蛇状の構造を持つポリマーで構成されており、水の吸着と放出を自然に切り替えることができる。
「スマートな」エアロゲルは電池を必要とせず、自律的に大気中の水分子を集めて液体に凝縮し、水として放出する。湿度の高い条件下では、1キロのエアロゲルで、1日に17リットルの水を生成することができ、これは1世帯が1日に必要とする水量を満たすのに十分だ。一方、晴天時には、エアロゲルは水の放出に有利な構造に変化する。
著者らによると、エアロゲルは、吸収した水蒸気の95%を水に変換し、数か月間休みなく水を生成することができるという。できあがった水を研究者たちがテストしたところ、飲料水として世界保健機関(WHO)の基準を満たしていることが分かった。
今後、家庭用や産業用にエアロゲルの生産を拡大するため、ホー教授らは、業界でのパートナーを探している。いつの日か、このスマートなエアロゲルは、長距離遠征や耐久スポーツのためのサバイバルキットにも使用されるだろう。
ホー教授は次のように話す。
「大気中の水が、地球規模の水循環によって継続的に補充されていることを考えると、私たちの発明は、エネルギーコストを最小限に抑えながら、さまざまな気候条件で持続可能な淡水生産を実現するための期待できる解決法を提供することになります」