2021年05月
トップ  > ASEAN科学技術ニュース> 2021年05月

過去800年のアジアの主要河川のパターン判明 シンガポール研究チームが調査

過去の気候パターンについての洞察を得るために、研究者らは8世紀にわたる河川の年間流量を追跡調査した。アジアの河川に関するこれまで最大規模の調査となった。

最大規模の調査が実施されたアジアの河川

AsianScientist -- シンガポールの研究チームは2年間に及ぶ集中調査を行い、アジア16カ国の41河川を62カ所の観測所を使って、過去813年間分もの年間流量をさかのぼって調べた。調査結果は、学術誌 Water Resources Researchに掲載された。

世界最大級の河川10本を擁するアジアのモンスーン地域では、30億人以上の人々に水・エネルギー・食料を供給している。だが、気候変動により南アジアの大氷河が縮小し、地域全体は迫りくる水の危機に直面している。水循環の潜在的な変化、および水供給への影響をより良く予測するためにも、過去の気候パターンを理解することが重要だ。

興味深いことに研究者たちは、河川流量の歴史を再構築するため、木の年輪といった間接的な指標に頼ることが多い。これは、多くの場合、降水量や蒸発散量などを含め、樹木の成長を引き起す気候関連の要因と河川流量を影響する要因とが同じだからだ。過去に、台湾大学とコロンビア大学の研究者は、「モンスーンアジア干ばつアトラス」(MADA)と呼ばれるアジア年輪データサイトの大規模ネットワークを構築している。

シンガポール工科デザイン大学(SUTD)の研究者らは、MADAを河川流量モデルの基礎として使用し、アジアの41主要河川流域について、最も関連性の高いMADAのサブセットを選択した。これにより、1200年から2012年までの800年以上にわたる年輪データから、河川流量に影響を与える重要な気候シグナルを抽出することができた。

アジアのモンスーン地域における本調査の対象河川流域の地図。過去の世界30大河川とされる河川名は青で記されている。提供:シンガポール工科デザイン大学

「アジアの河川が一貫したパターンで作用していることを、私たちは明らかにしました。大規模な干ばつや深刻な多雨期が、隣接、または近くの流域で同時に発生することがよくあります。時には、インドのゴダバリ川から東南アジアのメコン川まで、干ばつが続くこともありました」と、論文の筆頭著者であるグエン・タン・タイフン(Nguyen Tan Thai Hung)氏は解説する。

今回の研究は、大方の予想とは裏腹に、海洋がアジアの河川の動きに必ずしも影響を与えているわけではないことも明らかにした。昨今では、エルニーニョが熱帯地域の太平洋を温めると、大気循環が変化し、南アジアや東南アジアの河川では干ばつが起こりやすくなっている。だが、SUTDの研究チームは、20世紀前半のアジアの河川は、その50年前と50年後を比べると、海洋の影響をほとんど受けていないことを発見した。

このチームの研究は、各地域の政策立案者にとっても重要な意味を持つ。例えば、現在開発が進められている「ASEAN Power Grid」は、ASEAN諸国の水力発電・熱電・再生可能エネルギープラントを相互に接続したシステムとして知られる。

研究責任者のステファノ・ガレッリ(Stefano Galelli)准教授によると、以前にも大規模な干ばつが複数の発電所の立地地帯を同時に襲ったことがあることを彼らのデータが示しているという。この情報をもとに、研究者や政策立案者は、異常気象時に脆弱性の低い電力網を設計できるようになるであろう。

「水に依存するインフラに関して大きな決断を下す際には、過去1,000年間に河川流量がどこで、なぜ変化したのかを知る必要があります」

ガレッリ准教授はこのように結論付けている。

上へ戻る