絶滅したとみなされていた「ピナツボ山ネズミ」が再び発見され、フィリピンの野生生物保護関係者に希望を与えている。
Asian Scientist - フィリピンでの野生生物を調査する研究チームは、1991年のピナツボ火山の大噴火により絶滅したと考えられてきた希少なネズミを再び発見し、研究結果を科学誌Philippine Journal of Scienceに発表した。
1991年6月にピナツボ山が噴火した。これは20世紀において最も甚大な被害をもたらした噴火の一つとなった。この噴火により溶岩と灰の分厚い層が吹き出され、その後の台風とモンスーンによる雨で影響はさらに深刻になった。
甚大な被害をもたらした土砂崩れにより、コンクリート状の火山噴出物が流れ込み、がれきと水が山腹に泥流をもたらし、湿った重い灰が800人以上の人命を奪った。同時に山を覆っていた緑豊かな森や多くの動物も消滅させた。
その後、研究者らは、ピナツボ山の動物、特に哺乳類についての調査がなされていないことを考えるに至った。米国の国立自然史博物館で保管されている標本が、ある歴史的な背景を示していた。標本の中で特に興味を引いたのが、1962年に新種としてアポミス・サコビアヌス(Apomys sacobianus)という名で記録され、別名、「ピナツボ山ネズミ」と呼ばれた小型の齧歯(げっし)動物だった。
この小さな哺乳類の運命を見い出そうと、フィリピン人研究者で米国シカゴのフィールド自然史博物館に所属していたダニロ・バレテ(Danilo Balete、通称ダニー)氏は研究チームを率いて2011年にピナツボ山に戻ってきた。噴火から20年が経過していたが、その厳しい風景には、噴火に伴う破壊の痕跡が見られた。そこで目にしたのは、原生林ではなく、わずかな草、低木、低いつる植物、木などが散在する様子であった。
1991年の噴火後、岩石が崩れたピナツボ山でバレテらはピナツボ山ネズミを含む哺乳類を探索した。 写真提供:ダニロ・バレテ(フィールド自然史博物館)
驚いたことに、コウモリ、齧歯動物、そして野生のブタやシカなどの大きな哺乳類を含む17種がこの山に生息していることを研究チームは発見した。噴火よる絶滅とは程遠く、実際には最も多く生息している種がピナツボ山ネズミであることもチームは突き止めた。
これは、チームの当初の仮説とは正反対の発見となった。現場での調査は、原生林には、外来種や有害な種と比べて、より多くの在来種が生息するということを明らかにした。
ピナツボ山で調査された全地域において、在来種の齧歯動物が至るところで発見された。このことは、小さな在来種はその体のサイズよりもはるかに回復力があり、火山の噴火といった混乱の中でも高い耐性を持っていることを証明した。ピナツボ山が今後、噴火のダメージから回復すれば、森林は回復し、他の哺乳類の種もやって来るに違いない。
2017年、バレテ氏が突然亡くなった。その死後に、米国ユタ自然史博物館のエリック・リカート (Eric Rickart) 博士が共著者として研究を完結させた。リカート 博士はピナツボ山について「噴火後の生息地の回復とコミュニティーの再構成を長期にわたって観察するうってつけの場所になるだろう。このような情報は、人間によって切り払われた森を再生する地域にも役立つでしょう」との見方を示す。
もう一人、共著者として関わったフィールド自然史博物館のローレンス・ヒーニー(Lawrence Heaney)博士は「絶滅が危惧されるほど弱いと考えられてきた種が、実際には繁栄している事実を知ることは、ダニーへの最大の賛辞となるでしょう」と話した。