シンガポールで開発されたハイブリッドの照明技術が同国の課題であった農業の未来に明るい光をもたらしている。シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)のリリースによると、この照明技術によってコストを抑えながら持続的な農産物の生産が可能になるという。
同庁の農業技術部門である「農業・養殖統合技術プログラムオフィス」(A2HTPO)が国内外の企業と協力して、LED(発光ダイオード)を併用したハイブリッド照明技術を開発した。
2021年後半の実用的プロトタイプ完成に向けて、すでに国内の屋内農場で試験運用が始まっている。
シンガポール等の高度に都市化が進む国々で注目される屋内農業。
作物は高密度で積み上げられた棚で育てられる。(引用元:A*STAR)
高度な都市化による土地不足のほか、作物の成長を妨げる熱帯性気候という環境にあるシンガポールにとって農業の自給自足は大きな課題の一つだ。同国では屋内の垂直農法によって単位面積当たりの生産量の増加を目指しているが、これには照明などで大量のエネルギー消費を要するため、費用や環境負荷の点で悪影響が懸念されていた。
そこで、自然光(太陽)と、従来の電灯より長持ちし消費電力の少ないLEDを併用するハイブリッド照明技術が考案された。さらにスマートラーニングロジックによって成長段階ごとに作物に必要な自然照明と人工照明の比率を事前に算出し、最適化を行う。LEDを併用するこの照明技術では、少なく見積もっても従来の電力の75%のエネルギーでまかなえ、LEDも従来比で25倍長持ちするといい、制約を抱えている同国の農業生産にとって「ゲームチェンジャー」となる可能性を秘めている。
A2HTPOでは今後も、このハイブリッド照明技術の改良を推進する。現在、海外企業や、高度なデータ駆動型の気候制御施設を使用する地元企業などとともに、シンガポールでの実証を進めている。これらのコラボレーションを通じて、研究の質を向上させ、地元の農業技術産業に新しいイノベーションを導入することを目指している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部