2021年06月
トップ  > ASEAN科学技術ニュース> 2021年06月

「2D電解質」を考案、ドラッグデリバリーなどへの応用に期待 シンガポール国立大学

シンガポール国立大学(NUS)の発表(5月12日)によると、NUSの研究者は2次元で電解質のような特性を持つ「2D電解質」と呼ばれる新しい材料を考案した。ドラッグデリバリーからエネルギーの貯蔵まで多くの用途に応用が期待できるという。この研究結果は同日、学術誌Advanced Materialsに掲載された。

考案したのは、同大学の先端2D材料センター(the Centre for Advanced 2D Materials、CA2DM)のディレクターであるアントニオ・カストロネト(Antonio Castro Neto)教授らで、チームはCA2DMのほか, NUSの物理学部や材料科学工学部の研究者らで構成されている。

CA2DMディレクターのアントニオ・カストロ・ネト教授(右)、論文の筆頭著者のマリアナ・コスタ。写真提供:シンガポール国立大学

従来の電解質と同様に、新しい「2D電解質」は、さまざまな溶媒中で原子を解離し、帯電する。これらの配置は、pH(ペーハー)や温度などの外部原因によって制御でき、標的ドラッグデリバリーにとって理想的な特性となる可能性がある。このほか、2D電解質は、人工筋肉やエネルギー貯蔵といった環境の変化に反応する材料を必要とする分野の応用にも有望だ。

これまでに多数の2D材料が存在し、電解挙動は他の無数の化合物で十分に確立されている。そうした中で、NUSの研究者らは、電解質の2D構造と特性の両方を備えた材料を最初に示したケースとなった。NUSのチームは、有機分子を反応種として使用して、グラフェンや二硫化モリブデン(MoS 2)などの2D材料にさまざまな機能を追加することで、今回の成果を達成した。

この研究のブレークスルーは、2D電解質の配向が外部条件を微調整することによって可逆的に変化する可能性を示したことであり、しかも、このクラスの材料を発見することで、物理学の分野の2D材料と電解質(電気化学の分野)という、従来はリンクされていなかった2つの研究分野が統合され、材料科学者にとって新しい探索分野が開かれた。

「グラフェンやその他の2D材料を機能化して、それらを2D電解質に変換する方法は無数にあります。私たちの研究が、さまざまな分野の科学者に2D電解質の特性と可能な用途を探求するきっかけとなることを願っています。2D電解質によってナノファイバーを形成し、ろ過膜、ドラッグデリバリー、スマートe-テキスタイルなどへの応用が期待されます」とカストロネト教授は話している。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

上へ戻る