巨大なクモネズミがフィリピン諸島に生息し6万年以上にわたり古代人と共存していたことが新たに発見された化石から明らかになった。
AsianScientist - 巨大な齧歯(げつし)動物というと悪夢に出てくるような存在だが、フィリピンでは巨大なクモネズミが6万年以上ものあいだ古代人と共存していたことが新たな化石から明らかになった。この発見はフィリピンと米国の共同チームによって行われ、学術誌 Journal of Mammalogy に発表された。
1987年に公開され、カルト的人気を誇った映画「プリンセス・ブライド・ストーリー」に、主役の2人が危険な火の沼を通り抜ける印象的なシーンがある。そこで彼らは、伝説の「異常なほど大きい齧歯動物」、つまりネズミに似た奇怪な血を吸う生き物に遭遇する。
このような齧歯類は確かに存在していた―古代フィリピンでのことである。この巨大な哺乳類は「クモネズミ」と呼ばれ、霧深い山中の森の梢に生息していた。しかしフィクションとは異なり、実際のクモネズミは愛らしく、米国にいるリスのように生態的ニッチを満たしていたという。
筆頭著者を務めるフィリピン大学ディリマン校考古学部のジャニン・オチョア(Janine Ochoa)准教授は、「フィリピンのルソン島で大型の哺乳類が絶滅したことを示す証拠はすでにありましたが、小型の哺乳類の化石に関する情報はこれまでほとんどありませんでした」と説明する。
他の偉大な科学的瞬間と同様に、彼女の研究チームがクモネズミの化石を発見したのも偶然の産物であった。オチョア氏率いる研究チームは、フィリピンのカラオ洞窟で化石の調査を行っていた。この洞窟では2019年に新種の古代人「ホモ・ルゾネンシス」が発見されている。
「この古代人に関連する化石群を調べていたところ、歯や骨の断片が見つかり、それらが新種のクモネズミのものであることが分かったのです」とオチョア氏は言う。
ただ、研究者らが入手できたのは50個ほどの化石の断片にすぎず、しかもそのほとんどが歯だった。それでも、わずか数十本の歯と骨の断片から、チームは3つの新種のクモネズミを突き止め、それらがどのように生活していたのかその全体像を描くことに成功した。
共著者であり、米シカゴにあるフィールド自然史博物館の学芸員であるLarry Heaney (ラリー・ヒーニー)博士は次のように述べる。
「大型のものはウッドチャックにリスの尻尾をつけたような外見でした。クモネズミは植物を食べ、大きな太鼓腹を持ち、牛のように食べた植物を発酵させることができました。毛で覆われたフワフワとした大きな尾を持ちとてもかわいらしいです」
新たに発見された齧歯類の化石の一部は、ホモ・ルゾネンシスが発見された洞窟と同じ深い地層で発見され、およそ6万7,000年前のものであることが判明した。しかし、標本の中にはわずか2,000年前かそれ以降の地層から発見されたものもあり、この巨大なクモネズミが少なくとも6万年以上にわたって存在し続けた屈強な生物であったことを示している。
クモネズミは氷河期や気候変動を乗り越えてきた可能性があるが、その絶滅は最終的に人間によって引き起こされた可能性が高い。クモネズミの化石の記録が突然消失する時期と、フィリピンで土器、石器、家畜が初めて登場する時期とが一致しているからだ。
同チームの発見は、人間の活動が生物多様性に及ぼす影響に関する、今後の研究の道を切り開くものである。これは、世界が人間によって形作られる傾向がますます強まる中でとりわけ重要なテーマである。
「私たちの発見は、とりわけ小型哺乳類の化石を調査する今後の研究が、非常に実り豊かなものになる可能性を示唆しています。そして、環境の変化や人間の活動が、フィリピンのきわめて珍しい特徴的な生物多様性にいかに影響を与えてきたか、多くのことを教えてくれるでしょう」とオチョア氏は語る。