新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるロックダウンにより、シンガポールでは移民労働者のデング熱感染者数は減少したが、一般国民のデング熱感染者数は増加した。
AsianScientist - COVID-19によるロックダウンはシンガポール人のデング熱感染者数の著しい増加をもたらす一方で、シンガポール国内の移民労働者のデング熱感染者数の減少につながった 。これらは、Journal of Infectious Diseases および Journal of Travel Medicine で発表されたCOVID-19やデング熱に関する研究から導かれた驚くべき結果である。
世界中で300万人以上の命を奪ったCOVID-19は、当然ながらトップニュースとして扱われている。しかし、心臓病やがんといった大ニュースになりにくい病気は、パンデミックであろうとなかろうと人々の命を奪い続けている。シンガポールでは蚊媒体性のデング熱が風土病であるが、過去最悪のデング熱の大流行は2020年に発生した。35,000人以上が感染し、少なくとも29人が死亡した。
「デング熱の流行はCOVID-19のパンデミック対策と同時に発生しましたが、ロックダウン期間における私たちの行動や動きに前例のない変化があったことを考えれば、ある前例のない事例が別の前例のない事象の発生につながることは、自然なことに思われます」
シンガポール国立大学 (NUS) のSaw Swee Hock School of Public Healthのアレックス・クック (Alex Cook) 准教授はこのような見方を示す。
シンガポールの「サーキットブレーカー」であるソーシャル・ディスタンシング政策がデング熱の感染に与えた影響を調査するため、クック准教授らは、2020年におけるロックダウンの実施前後のデング熱感染者数を比較した。5歳から65歳までを対象とし、調査の結果ベースライン値と比較したところ、感染者数が37%増加したことを発見した。
クック准教授は「通常では、多くのデング熱の感染例は国内のクラスターと関連しないことが分かっています。これは、実際のクラスターにおける感染の見落とし、もしくは多くの感染が家庭から離れて発生していることが原因かもしれません。例えば、職場やホーカーセンター(屋台街)などです。ロックダウンの期間にシンガポール人の一般コミュニティーにおいてデング熱の感染率が増加したというのは、少し驚きました」と明かす。
しかし、移民労働者の場合、状況は逆である。季節性や人口規模などの潜在的な交絡因子を考慮の上調査した結果、2020年4月7日から6月1日のロックダウン期間に移民労働者ではデング熱の症例において、約432件の減少があったことをクック准教授らは見いだした。
「寮に住む外国人労働者のデング熱発症率が低下したという私たちの発見は、ある意味、予想していたことでした」とクック准教授。共同トイレの利用により、寮の管理者が蚊の繁殖を予防しやすくなったという。
「外の仕事では、エアコンの効いたオフィスで仕事をする人よりも労働者が蚊に刺されるリスクが高まります。そのため、ロックダウンの期間にそのリスクが除かれることで、外国人労働者の間での感染率は低くなることが予想されたのです」とクック准教授は説明する。
研究は、職場のロックダウンがなぜ移民労働者とシンガポールの一般国民の間での異なるデング熱感染率につながったのかは明らかにしていないものの、COVID-19の感染が増加しようと減少しようと、他の病気にも警戒をすべきことを示した。
「COVID-19の場合と同様に、長期的に見ればデング熱の伝染を減少させる最善策は、広範囲で使用される効果的なワクチンです。しかし、そのワクチンができるまでの間は、人々が家庭の内外で'蚊の全滅'を目指すことの重要性を私たちの研究は示しています」とクック准教授は締めくくった。