シンガポールの南洋理工大学 (NTU) を中心とする国際研究チームは5月19日、バクテリア、ウイルス、真菌がネットワークを形成して、肺感染症を引き起こすことを発見したと発表した。
写肺のモデルを示すサンジャイ・ハーシュ・チョティルマル 準教授
写真提供:シンガポールの南洋理工大学(NTU)
これまで感染症は、細菌や真菌、ウイルスなどの微生物が体内に侵入して増殖することで起こり、その重症度は、微生物が体内でどの程度増殖したかによって決まるとされてきたが、今回の研究結果から、感染症を理解するための新しい考え方が示された。
研究チームは、慢性気管支拡張症患者の気道における微生物の相互作用を調べるため、シンガポール、マレーシア、イタリア、スコットランドの患者383人から、呼吸器サンプルを採取し微生物の遺伝子を分析した。その結果、体内の微生物はネットワークとして存在していることが明らかになった。また、データを統計学的に解析した結果、気管支拡張症が頻繁に起こる患者では、微生物が協力するよりも競争するような負の相互作用が多く見られた。これらの結果から、感染症の重症度は微生物間相互作用の結果である可能性が示された。
これらの知見を基に、研究者や医師が、患者のサンプルを使って、微生物の遺伝子情報から、相互作用を分析できるオンラインツールを開発した。NTUのサンジャイ・ハーシュ・チョティルマル (Sanjay Haresh Chotirmall) 準教授は「特定の微生物ではなく、微生物の相互作用を標的とする新しい治療法を確立できるかもしれません」と期待を表明した。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部