気候変動に起因する異常気象は、世界最古の洞窟壁画の劣化にも影響を及ぼしている。
AsianScientist - 気候変動の恐るべき影響が生じる先は地球環境のみにとどまらない。今回の研究によれば、気候変動は文化遺産をも脅かしている。つまり、アジアで発見された世界最古の洞窟壁画の一部の劣化を加速しているのである。この研究はScientific Reports 誌に発表された。
フランスのラスコー洞窟は、有史以前の動物の洞窟壁画で世界的に有名であるが、こうした先史時代の芸術は西欧に限られたことではない。2021年1月には、動物を描いた世界最古の洞窟壁画として、約4万4000年前に実物大で描かれたセレベスヒゲイノシシ(Celebes warty pig)の壁画をインドネシアのスラウェシ島にある鍾乳洞で考古学者たちが発見した。また同じ場所には、現在世界最古とされる手形のステンシルもあった。こちらは少なくとも3万9900年前に遡るものと推定されている。
この壁画はアジア熱帯地方にとって貴重な文化遺産であるが、地元の文化財管理関係者は次のような警告を発している。その事例報告では、この数十年のうちに、インドネシアの著名な洞窟壁画の作品が急激に劣化しているとのことであった。しかし、そのような劣化に至った背景に潜む理由は依然として明らかになっていない。
洞窟壁画の劣化が加速する原因として考えられるものを突き止めるため、インドネシアやオーストラリアから集まった国際的な調査チームがスラウェシ島のマロス・パンケプにある11の洞窟遺跡を調査した。この中で、特に洞窟の表面からすでに剥離し始めていた岩の薄片の分析を行った。
その驚くべき原因とは何か? 答えは塩である。この論文の著者らが岩の薄片から見つけたものは、硫黄、硫酸カルシウム、塩化ナトリウム(いわゆる食塩)であり、複数の塩に共通する成分を11の遺跡すべてで発見した。こうした塩は岩石の表面に結晶を形成することが知られており、これが原因で岩が剥がれた可能性がある。
さらなる塩の結晶形成の進行は、これらの芸術作品が世界で最も気候的な変動が激しい地域に位置している事実と繋がっている。オーストラリア・モンスーン地域として知られているこの地では、雨季と乾季が入れ替わることに起因する気温や湿度の変動に繰り返しさらされている。そのような季節変動は塩の結晶形成に好都合な条件を生みだし、ひいては壁画の劣化を招く。
人類が引き起こした気候変動により、異常気象は高頻度に深刻な事象を伴い、インドネシアの洞窟壁画は特に塩の結晶化の影響をますます受けやすい状況下にある。この観点から、熱帯地方では特に、先史時代の洞窟壁画を守るための長期的なモニタリングと保存の努力が必要となってくる。
「マロス・パンケプの洞窟壁画に対しても、欧州の洞窟壁画に対して数十年にわたって行われてきたモニタリングや保存と同レベルの取り組みが行われてしかるべきです。特に古いインドネシアの洞窟壁画は過酷な熱帯環境にあって、気候変動の影響を著しく受けやすいことから、さらなる研究が喫緊に必要となっています」とこの論文の著者らは訴えている。