2021年07月
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気候変動、人間の行動にも影響 カンボジアで研究

カンボジアの漁師の習慣に関する新しい研究から、気温上昇が生態系と人間の双方に及ぼす影響を探究する意義が明らかになる。

AsianScientist - 気候変動分析の大半は環境データに基づいたものであるが、カンボジアにおける新たな研究では、人間の行動も気候データに組み込む必要があることが示唆されている。この研究成果は、Science Advancesに掲載された。

国連 は1974年以来、6月5日を「世界環境デー」と定めている。今年は、傷ついた生態系を再生し、気候変動を抑え、生物学的崩壊を防ぐための緊急対策を呼びかけている。2021年は、2030年までに数十億ヘクタールの森林や農地を再生する世界的なミッション「国連生態系回復の10年」が始まる。

多くの生態系の中でも特に危機に瀕しているのは淡水漁業である。淡水漁業は、主に低中所得国の約10%の人々の生活を支えている。気候変動の影響により、世界の海産魚の漁獲高は1930年から2010年までに4%減少し、今後の温暖化により、2050年までにさらに13%減少する恐れがある。

気候が漁業に与える影響に関する既存のモデルでは、気温上昇による生態学的影響が浮き彫りになるが、人間の行動が研究で考慮されることはほとんどない。

「気候変動の影響を正確に予測するには、生態系への影響だけでなくそれらを利用している人間への影響も知る必要があります」

本研究の筆頭著者である米コーネル大学のキャサリン・フィオレラ (Assistant Professor Kathryn Fiorella) 准教授はこのように話す。

今回の研究でフィオレラ准教授らは、漁民に関する国際的な調査データを収集するマレーシアの非営利研究機関「WorldFish」と協力した。

WorldFishは、カンボジアの漁師の行動について2カ月間追跡調査を実施し、漁の頻度、漁に費やされる時間、漁の方法などに関する情報を収集した。

その結果、摂氏24度から31度の範囲では、気温が上昇すると漁の頻度は減るが、漁獲高はそれまでとほとんど同じであることが明らかになった。漁師の行動を考慮しなければ、気温は漁獲高に影響を与えていないように見えるだろう。

筆者らは、気温とともに魚やその他水産物の資源量が増えると、漁獲量の若干の増加につながることを発見した。つまり、この生態系では、温暖な時期にはたとえ、漁をする漁師の数が減っても生産量は増えていたのである。

研究者らによると、利益競合のために、気温の上昇に伴って漁業頻度が低下した可能性があるという。

「こうした世帯は、さまざまな仕事を兼業しています」。フィオレラ准教授によると、その多くが、稲作や小規模事業を行っているという。

しかし、耐えがたい暑さが影響している可能性は依然、存在する。そのほか、多くの人々が仕事を求めて都市や隣国に移住しており、そうした動きが漁業から遠ざけている可能性もある。

「この研究は、人間の行動を気候変動のモデルに取り入れることの重要性を明確に示しています。最終的には、気温に対する生態系の反応と人間の反応の両方を理解することが、食料や収入を天然資源に直接依存している人々に気候変動が与える影響を理解する上での基盤となるでしょう」

フィオレラ准教授はこのように締めくくった。

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