シンガポールの研究者らは、CRISPR-Cas9の技術を改良してヒトのDNA配列にある1文字の変異を修正できる新しい遺伝子編集技術を開発した。
AsianScientist - シンガポールの科学者らが、ノーベル賞を受賞した技術CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)の助けを借りて、遺伝性疾患の原因となる点変異を正確に修正できる遺伝子編集技術を開発した。この研究は、Nature Communicationsに発表された。
世界では17人に1人が遺伝子疾患を抱えていると言われている。この疾患の影響を受ける4億5千万人のうちの1人が、親戚、友人、同僚などあなたの知り合いに含まれるかもしれない。私たちの体内では1日に何兆個もの細胞が分裂しており、太陽光や自然発生的なエラーなどの要因によって遺伝子の突然変異が簡単に起こりうる。
遺伝子の突然変異には多くの種類がある。最も一般的なものは、DNAの1つの塩基が別の塩基に置き換わる一塩基置換と呼ばれるものである。
例えば、遺伝性疾患の1つ、嚢胞(のうほう)性線維症では、CFTR遺伝子で、シトシン (C) がグアニン (G) に置き換わる。CFTR遺伝子は、体内の塩分と水分のバランスを調整する。それにより、嚢胞性線維症の患者は、CFTR遺伝子の機能不全によって肺に濃い分泌物が溜まり、頻繁に呼吸困難に陥る。
有害な一塩基置換を修正するために、シンガポール科学技術研究庁 (A*STAR) のチュー・ウェイ・レオン(Chew Wei Leong)博士が率いるチームは、ゲノム上の欠陥のあるCsをGsに正確に変更する世界初の遺伝子編集技術を開発した。
研究チームは、既存のCRISPR-Cas9の遺伝子編集技術を改良することで、このマイルストーンを達成した。CRISPR-Cas9は、一般に遺伝子の伸長を編集するために使用されるが、特定の配列を1文字ずつ正確に変更する必要がある場合には非効率的という課題があった。 研究チームのC-to-G塩基編集は、3つに分けてこれに対処する。まず、CRISPR-Cas9システムを、突然変異した遺伝子に的を絞るように修正した。
その後、酵素がアミノ基を除去して、置換する、欠陥のあるCをマークし、修復タンパク質がCを除去してGに置き換える。チームは、この新しい塩基編集を応用して、難聴に関連するGJB2、脂質バランスの乱れに関連するADRB2など、遺伝子における変異を修正した。
「C-to-G塩基編集は画期的な発明です。単一ヌクレオチド変異に関連する遺伝性疾患においてかなりの部分に治療の道を切り開く可能性があります。臨床用に応用するために、私たちの塩基編集とCRISPR-Cas9・モダリティが疾患モデルにおいて有効かどうか、安全かどうかを確認することに取り組んでいます」とチュー氏は話している。