フィリピンに生息するほぼ同一の牙を持つ2種類のカエルが別の種に属するものであることを、研究グループが交尾の鳴き声から同定した。
AsianScientist - 見た目にだまされてはいけない。フィリピンのミンドロ島に生息する牙をもつカエルは、隣島の近縁種に異様なほど似ているにもかかわらず、全く異なる種である。その違いは交尾の際の鳴き声と遺伝子にあると、フィリピンと米国の国際チームが学術誌Ichthyology & Herpetologyに報告した。
ミンドロ島のカエルとパラワン島に生息するアカントのカエルは、肉眼では瓜二つで、どちらも異様に大きな歯(牙)を持ち、手足や口に黒い模様のある褐色の皮膚をしている。訓練を受けた専門家が目の直径や脚の長さなどあらゆる体の部位を比較しても、これらのカエルの身体的特徴はほとんど見分けがつかない。
1世紀以上もの間、科学者たちはこの2つのカエルは同じ種に属するものと考えていた。しかし最近になって、フィリピン大学ロスバニョス校とデ・ラ・サール大学ダスマリニャス校の研究者らが、米国の共同研究者とともに、これまでの見解を覆す明確な証拠を発見し、ミンドロ島のカエルがLimnonectes beloncioiという新種であることを証明した。
2つのカエルは別々の島に生息していたため、研究者らは、両者の個体群がミンドロ島とパラワン島の間の海に隔てられて進化的に離れていったと考える十分な根拠があった。こうした地理的な障壁が2つの種の交配を妨げ、それぞれの形質の変化につながったものと予想されていた。
しかし、科学者たちが当初注目していた場所ではないところに明白な違いが存在していた。フィリピンと米国の国際チームは、体の大きさや形状を測定する従来の方法ではなく、オスのカエルの交尾の際の鳴き声を聞いて、その音声をコンピュータのアルゴリズムで処理した。
その結果、ミンドロ島のカエルの鳴き声が単音であるのに対し、アカントのカエルの鳴き声は2つのパルスの音で構成されていることがわかった。また、ミンドロ島のカエルの交尾の際の鳴き声は、より高音で甲高いのに対し、パラワン島のカエルの鳴き声は、テンポが速く、1秒間に繰り返される音の数が多かった。
鳴き声があまりにも異なるため、両方のカエルが交尾をすることは考えにくい。互いの鳴き声を認識できないからだ。この違いは、両方のカエルが別の種に分岐したことを裏付ける確かな証拠を提供した。
両方のカエルのDNAをさらに詳しく分析したところ、ミンドロ島とパラワン島の個体群は別の系統であることが判明した。事実、両者の遺伝子変異は、認識されている他のカエルの種と比べ、より顕著であるようにみえた。
遺伝子情報と交尾の際の鳴き声のデータから、ミンドロ島のカエルは、新種が、別の既存の種と同じ身体的特徴を維持しながら進化する、隠蔽(いんぺい)種分化の珍しいケースであることが示された。
筆頭著者の米カンザス大学のマーク・ハー(Mark Herr)氏は、「これら近縁種は200万年から600万年かけて分離していったことを私たちは突き止めました。これらのカエルにとっては非常に長い時間です。見た目はそっくりなのに鳴き声が違うというのはとても興味深いことです」と話している。